今回は12年ぶりの正月山行となるが目的は厳冬期の大朝日岳登頂、そして全行程をスキーで歩きそしてして山頂からスキー滑降することであった。スキーの活用については2004年の3月に根子から古寺山まで歩いているので、条件さえ許せば小朝日岳から大朝日岳までは歩けると確信していた。しかし斜面は多少クラストしていてもスキーアイゼンで歩けるが、最大の敵は熊越えから先の強風と考えていた。
コースについては古寺鉱泉から鳥原経由のコースと古寺鉱泉から古寺山コースを検討し、ロングコースの鳥原コースは却下した。しかしながら今年の豪雪でチャーターしたスノーモービルは古寺鉱泉には入れず、やむなく日暮沢小屋からハナヌキ峰経由のコースに変更となった。
スノーモービルのチャーターについては何かしら後ろめたい気もしたが、山スキーヤーがリフトを使う事と同じと割り切って考え、アプローチよりアタックに最大のエネルギーを使うほうが得策を考えた。テン場については当初ハナヌキ峰付近と考えていたが、スノーモービルの出発が大幅に遅れてしまい、結局テン場は日暮沢小屋先のハナヌキ峰の取り付き地点となり、翌日は標高差1170m、直線距離6.0kmのロングコースとなった。
12/31 根子12:00〜砂防ダム13:00(スノーモービル)〜日暮沢小屋14:00〜ハナヌキ峰取り付き地点15:20
1/1 ハナヌキ峰取り付き5:05〜ハナヌキ峰7:15〜古寺山ショルダーP8:50〜小朝日岳10:15〜大朝日小屋12:20〜大朝日岳12:50 13:05〜熊越13:55〜古寺山15:05〜ハナヌキ峰16:00〜取り付きテン場16:50
1/2 ハナヌキ峰取り付き9:05〜日暮沢小屋9:50〜根子11:50
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【12月31日】
早朝に南陽市を出発したが外は40cmほどの積雪がありまだ除雪されていない。山道の深い雪を漕ぐようにしてようやくメインの県道にたどり着き、ひどく雪の降りしきる中進路を北にとって相方との集合点の西川町方面を目指す。しかし誤って入った朝日町方面に通じる峠はトンネルから先の除雪が進んでおらず、先行する1台の4WDワゴン車の後に付いてまた泳ぐようにして坂を下ってゆく。途中でスタックしたら今日の予定はアウトになりそうで心配したが、地元の青ナンバー車はさすがに動揺を見せずどんどん下ってゆく。
西川町で時間に遅れて相方と合流して大井沢へと向かい、チャーターを依頼したM氏宅へ向かったがどうも顔色が冴えない。昨日、15kmある古寺鉱泉まで2度トレースをつけたらしいが、一夜にして60cmの積雪の為今日の状況では困難な様子。しかももう1台スノーモービルを先行してトレースを付けないと無理らしく、急遽応援を頼み3時間の時間待ちをなってしまう。この時点で古寺鉱泉コースは断念せざるを得ず、やむなく2年前の同じコースであるハナヌキ峰コースに変更し、スノーモービルは5km先の砂防ダムまで入ってもらう事にする
ようやくやって来た1台に先行してもらい、もう1台のそりに荷物を積み込み後ろのシートとそりに2人が乗って出発。しかし先頭の1台も最初のカーブでいきなりスタックしてしまい、深い雪の中3人で引き上げて先を進む。2サイクルエンジン特有の音とオイルのにおいは不快だが、うなりを上げるパワーはさすがに機械の力を見せ付けるようだ。一見簡単そうに見える運転だがドライバーは立って大きく左右にバランスをとり、時には片側に全体重を乗せて巧みにコーナーを進んでゆく。最近までスノーモービルスクールを経営していたほどの熟練した腕前と見え、途中5回くらいスタックしながらもようやく砂防ダムまで到着した。
途中で日暮沢小屋から下山してきた地元N山岳会の2人とすれ違ったが、スキーでさえこの深雪ではいつもの3倍くらいの時間がかかるらしい。竜門山コースには他5人と、東京の3人パーティが日暮沢小屋から上部を目指しているが、この深い雪でかなり四苦八苦している様子だった。
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チャーターしたスノ−モービル |
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砂防ダムのトラバース |
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日暮沢小屋からテント場へ |
砂防ダムの手前からは左岸からのデブリが堆積しており、気温が上がってきたので油断がならない。しかし下山パーティのトレースが付いていたのでスムーズに通過し、天候も急に回復してきて順調なペースで日暮沢小屋に到着する。先行のパーティに感謝。この先のハナヌキ峰方面のコースはノントレースになるが、若干気温が高い為か雪が落ち着いてラッセルもさほど気にならず、さらに1時間ほど沢沿いに歩いてハナヌキ峰の取り付き点手前に達する。ここで本日は終了として早速テント設営に取り掛かり、終了後は夏道の一つ手前の尾根沿いに空身でトレースをつける。雪は膝下までの深くて不安定だがシールは良く効き、150m程登り急な斜面は終了して明日の見通しをつけて下降する。
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【1月1日】
2:50AM起床、5:05出発。天気予想によれば東北地方は高気圧に覆われ、今日1日は安定している模様なのでテン場から1日で大朝日岳を往復する事に躊躇は無かった。風は無く、比較的寒さを感じることのない穏やかな朝で、ヘッドランプを点けながら昨日のトレースを快調なペースでジグを切って上り詰めてゆく。気温が少し高めの為か雪は比較的締まっており、以外にシールが良く効いてあまり疲労感は感じないが、もしこれがワカンでのラッセルだったとすると大変な様で、おそらく腰くらいまでのラッセルを強いられると思われる。
ルートは登山道より1本手前の尾根にとったが、やがて急傾斜は無くなり広くなった尾根上を赤布を付けながら高度を上げて行く。夜が明けてくると同時に対岸の竜門山に至る尾根が見えるが、ゴロビツ付近に1日先に入った2つのパーティーの姿は見られなかった。次第にガスは上がってきて竜門山付近まで見渡すことができ、次第にやる気が出て来てピッチが上がって来た。2時間以上歩き続けると古寺鉱泉からの登山道と合流し1196mのハナヌキ峰に到着して小休止とする。周りを振り返ってみると大朝日岳から西朝日岳、竜門山、遠く以東岳がすっかり見渡せ、この時点で今日はもらったと思い自信を深めた。
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古寺山ショルダーピークへの登り |
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ショルダーピークより 後ろは月山 |
尾根に出てみると寒気は強まり風も出てきたので、ベストを着込み目出帽を被って完全武装で古寺山方面を目指す。いったん樹林帯の尾根を50mほど下り、再び古寺山のショルダーピークを目標に斜面にジグを切って行くが、高度330mを一気に上りきるとがっくり疲れが出て来てしまう。ショルダーピークの小さな雪庇を乗り越えると、左手に白いヒマラヤひだをまとった様な前衛峰の小朝日岳、その向こう側には堂々とした大朝日岳の雄姿が目に飛び込んでくる。主稜線上には中岳、西朝日岳、竜門山の山々が美しいコントラスト描き、その遠くには真っ白い雪に身をまとった伊東岳の姿が見える。
古寺山で小休止した後はいったんコルを下り、東側に大きく張り出した雪庇を樹林帯に逃げるようにして前進し、直下の急な雪壁を乗り越えて小朝日岳の山頂に立つ。2003年3月の頃はガリガリの斜面でアイゼン歩行を強いられたが、今回の雪は10cm位沈んだ位でシールが程良く効き、順調なジグを切りながら上り切った。山頂に立つとまるで大朝日岳が我々に手招きしている様で、もうここから引き返す事など考えられない様な魔力を秘めたコースに思えた。厳冬期の朝日連邦の素顔とは3月と違って荘厳な趣があり、何者も近づきがたい神秘的な様相を持った感動的な姿に見える。
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ハナヌキ峰へ |
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ハナヌキから西朝日岳 |
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ハナヌキから中岳 |
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小朝日岳から古寺山 |
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古寺山から小朝日岳へ |
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小朝日岳への快適な登り |
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古寺山から中岳、西朝日岳 |
小朝日岳山頂から見る大朝日岳へのコースは熊越えのコルで大きく高度を落とし、南側にすっぱり切れ落ちた稜線に雪庇が大きく張り出し、大朝日小屋へと続く急な無木立の尾根が続いている。中岳から落ち込むイリソウカ沢の左岸の斜面は全面大規模な表層雪崩の跡が見られ、その破断面は50cm〜1m位はあるようだ。
山頂からは尾根上に降りると途中から急な尾根となり、右側に大きく振って潅木帯の斜面をジグザグに降りてゆく。シールを外せばば快適なパウダースキーとなるところだが、そんな余裕など無いのでそのまま熊越えのコルまで降り、その後左に大きく張り出した雪庇を右に巻く様にして樹林帯を登る。所々20cm位の幅の深いクラックが走っているので、大事をとって10mほど樹林帯を入った斜面を選んで高度を上げる。
やがて1590m位で森林限界となってその先からは風も強まり、締まった雪の斜面にスキーアイゼンを効かせながら上り切ると、見覚えの有る大朝日小屋がどんどん近づいてきる。登るにつれてシュカブラが発達して歩きにくくなり、強風のために露出した石や氷の斜面が所々出て来るが、それでもめげずに歩き続けて大朝日小屋に到着する。
強風の場所だが小屋の正面東側の出入り口側だけは風から逃れられ、一休みしてから最大の目標である大朝日岳の山頂を目指さして出発する。山頂へは雪煙の舞うシュカブラを乗り越えるようにして高度を上げ、強烈な寒気を物ともせずただひたすら上を目指して歩き続け、ようやく念願の大朝日岳山頂に立つ。
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清太岩山から竜門山 |
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小朝日岳から大朝日岳 |
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小朝日岳から中岳、西朝日岳 |
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小朝日岳から大朝日岳 |
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熊越え殻大朝日岳 |
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熊越え殻大朝日岳 |
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