今年度最初の沢登りとなるのは出会川水系の中俣沢という事になった。メンバーは西川山岳会の柴田さんと上野さんだが、この2人は3年前にそれぞれ単独遡行しているこの沢の精通者?で、自分は2人の後を付いて行くだけというお気軽山行にも思えた。
しかし、釣りを別にすれば5月の中頃からまったく山から離れ、プレ山行無しでの本ちゃん山行には少し不安があった。何しろバランスが悪い上に体が硬くて足も上がらず、久しぶりの重いザックですぐに息が上がるのは想像できる。でも、今ひとつ本調子で無いという上野さんも参加が決まり、そんな贅沢も言っていられ無い雰囲気となる。
中俣沢は朝日連峰の数ある沢の中でも人気No1の沢の様で、毎年この時期には首都圏からも多くの沢屋、釣り人が訪れるメジャーコースでも有る。朝日の沢をフィールドとしている者にとっては外せないコースだった。
【天候】 9月13日 曇りのち時々雨 14日 曇りのち時々雨 15日 曇り
【行程】
13日 南俣沢出合6:25〜天狗角力取山10:30〜出合川12:32〜呂滝13:11〜西俣沢出合手前テン場16:50
14日 テン場8:00〜ゴルジュ帯〜中俣沢出合8:52〜連瀑帯手前14:00〜連瀑帯終了15:30〜狐穴小屋17:00
15日 狐穴小屋8:00〜北寒江山〜竜門小屋9:46〜日暮沢小屋13:15 【スライドショー】
【メンバー】 柴田 上野 坂野
【概要】
9月13日
朝方になって上野さんがようやく日暮沢小屋に到着し、荷物をザックに詰め込もうとしていると、柴田さんからはロープ・ハーネス・ヘルメットは要らないと言う意外な声が掛かる。持ったのは細引きと若干のスリングとカラビナのみで、4級上クラスの沢でホンとにいいの?と疑ってしまう。経験者の弁だから間違いは無いだろうが、高巻だったら何処でも突破して行くという頼もしい雰囲気も感じられる。
下山コースの日暮沢小屋に2台の車を残し、スタート地点の南俣出合に車で向かうと駐車場には既に10台以上の車が有った。予想外に不安定なお天気模様だが、重く肩に食い込むザックを担いでスローペースで出発。出だしがスローペースなのは何よりで、久しぶりの山行では額から汗がボタボタ落ちながらも、あまり息も上がらず順調な登りでひとまず安心した。
竜ヶ岳付近で以東岳経由の八の字コースを目指す男女2人パーティーを追い抜いたが、その後は天狗角力取山を経由して殆ど同じペースで出合川に到着する。しかし、途中に通過した粟畑付近の立派な石畳のコースには驚いた。
出合川には既に先行していた釣り人のタープが有り、一人を残して既に上流方面に出撃した様子で、どうやら期待した楽しい釣りは帳消しとなりそうな雰囲気だ。歩き始めはごく平凡な広い河原でのんびりムードだが、間もなくお待ちかねのプールが出て来てくる。ここで各自のスタイルの違いが出て来て、クライマー系の柴田さんと釣り人系の上野さんの違いが明らかになる。
出来る限り濡れずに岩を攀じるタイプと、何処までも水線突破を目指す泳ぎタイプではコース取りが異なる。自分では何時の間にか水線突破派になり、微妙なへつりや豪快な滝の直登などは別次元の話となってしまった。予想に反して曇りに時々雨が混じる天候だが、最近はまとまった雨もなかった様で、水量は少なめで歩きは以外に楽だった。
歩き始めると間もなく泳ぎとなり、その後最初に出て来た隠れた滝を左から楽に高巻き、快適な砂場のテン場を2〜3箇所通過して幾つかのへつりを繰り返すと広い河原歩きとなる。途中には釣り人のテントが1ヶ所あり、この先のポイントは全て荒れている様子が伺える。時間的な余裕も有りそうな為、今日のテン場は呂滝を越したところを目標に前進する。
呂滝に到着してみると意外と滝の落差は2m程だが、大きくて深い釜を持ったその姿は中俣沢を象徴する存在で、大岩魚の潜む幻想的なイメージを連想させる。
特に問題となるところも無く、釣りのポイントには目もくれず、呂滝の右のしっかりとした踏み跡を辿り、へつりを繰り返しながら泳ぎを交えて通過すると時間はどんどん経過する。途中で下ってきた3人の釣り人のアドバイスで更に前進し、西俣沢手前のテン場に到着した頃には既に5:00PM前になっていた。結局釣りをやるような時間的な余裕は無く、残念ながら竿はザックにしまい込んだままとなる。
高台の砂地は狭いがテン場には快適環境で、すぐ隣は岩魚が遊ぶ清水の湧き出る池だった。マキを集めて濡れて冷えた体を温め、楽しい大宴会場となった事は言うまでも無い。肝心の岩魚が無いのは寂しいが、沢登りとなると出来るだけ先を急ぎたい雰囲気で結局時間は無く、テン場では巻き集め・テン場造り・食当と忙しく、結局釣りにはならないのが当たり前。しかし、酒宴ととなると話は別で、理性豊かで立派な沢屋はあまり見かけない。
9月14日
飲んだくれた翌朝にはなぜかビールとワインが進み、グウタラなスタート時間はやっぱり8:00となる。いきなり朝の泳ぎは辛いが体が引き締まって朝の洗顔にはちょうど良い。フラフラとバランスの悪い体で後を着いて行くと、右上の急峻な岩肌を見せるエズラ峰が我々を圧倒する。雲の中からは青空も顔を見せて期待も膨らむが、結局は雨が混じった不安定な天候は昨日と変りが無い。
西俣沢を目指す単独の日帰り釣り人に追い越され、余り調子が上がらないまま意外と歩き易いゴルジュ帯を通過しやがて先行した釣り人は西俣沢へと姿を消した。、間もなく東俣と中俣沢の出合に到着する。我々のコースもこの先から沢の様子は一変し、滝と釜の連続となって植生の薄いスラブに磨かれた花崗岩のV字谷が続いてゆく。朝日連峰特有の良く開けた渓は明るく、時々雨交じりの天気でも暗いイメージも無いので気分は良い。
出合から連続する滝で次第に高度を上げて行きながら2〜3回泳ぎを繰り返し、やがて2段15mの滝で小休止とする。ここまで殆ど魚影を見る事が無く、余り期待もせずに竿を出してみるがやはり魚信は無く、ここから先は沢登りに専念して稜線を目指すのみとなる。
滝から少し戻っての右からの枝沢に取り付き、左にブッシュをトラバースして草付のスラブを通過し、ブシュから急な草付をアイスハンマーを効かせて降りると沢床となるが、草付に躊躇の無い柴田さんの跡をついて行くのは辛い。その後も直登可能な快適な滝が続き、自家用プールの様な泳ぎも実に楽しい。
体は重くて足も上がらない有様だが、嫌らしい草付や腕力勝負の連続する高巻は無く、ロープ無しでどんどん登れる快感はなんとも言えない。更に何度も滝を越えて行くと暫くして大きな釜を持った滝が現れるが、これがこのコースの核心部でポイントの高巻のスタート地点の模様。
ここでフェルトわらじを脱いで自慢のスパイク足袋の登場となる。少し戻った右の枝沢に取り付いて少し高度を上げ、岩交じりの草付をトラバースしてからブッシュを下降し、草付にアイスハンマーを効かせて意外と楽に沢床に戻る。スパイク足袋は草付には強力な武器となり、安定して足で登れる為に無駄な力を使わなくても通過できる。
この先の滝も殆どが直登可能でスムーズに通過し、間もなく斜め滝の奥にはフィナーレの連瀑帯が姿を現す。滝を超えたところで今日の大休止とし、連瀑帯をバックにポーズを決めて写真を撮り、時間も有るので夏では定番の薬味を効かせたソーメンを作って贅沢な時間を過ごす。何時もは時間に追われた忙しい沢登りが多いが、マッタリとした空間を楽しむ余裕も嗜みの一つか。
二俣から右の空滝となった大滝を見送り、左俣の7段位は有りそうな連瀑帯の入り口からは一気の登りとなる。1段目は黒く濡れた左側を直登し、2段目は勢いに乗って右から乾いた花崗岩のスラブを越えて行く。更にくの字の滝を右から高巻くとその先は傾斜の落ちたブッシュ&草付となり、3つ位の滝を右からまとめて高巻くと直登可能な滝となり、左を快適に登ると最後の滝の下に出た。
最後の滝を右から巻いて越えると河原状となり、後は開けた河原状の沢をひたすら歩き続けて狐穴小屋を目指す。疲れ切った体には辛い時間帯だが、1時間30分の歩きで狐穴小屋に到着し、管理人の安達氏の出迎えられてようやく終了となる。
9月15日
下降は竜門山を経由して日暮沢小屋を目指すが、出発は全ての登山者が出発した後の8:00AM。主稜線はガスって視界が今ひとつの中、膝をガクガクいわせながら5時間15分で日暮沢小屋に到着した。
根子川の植松沢を遡行した女性を含む5人ブナの会の皆さんだったが、我々と年代が変らないにも拘らず途中で軽く追い抜かれ、沢専の方々の実力の程を思い知らされた。
流石に中俣沢経験者のコース取りは間違いが無く、1回だけお助け紐を出した以外は登攀具不要で、高巻覚悟とはいえ何か新鮮な思いのする山行でも有った。シンプルイズベストと言う事か。
※ただし、今回は経験者と共に辿った記録ですので、天候・諸条件に恵まれたラッキーな時の話です。
連瀑帯下部の滝を直登してゆく
上部の滝は高巻いて最上段の滝を越える
連瀑帯最後の滝を通過すると後は楽園
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