朝日連峰 以東岳南面 西俣沢右俣 2006.05




以東岳からの大鳥池。

   

 山 域  朝日連峰 以東岳 (1771.4m)  ※スライドショー 
 目的コース  以東岳南面 西俣沢右俣) 
 山行日時  2006年5月4〜6日 
 天 候  5月4日 快晴  5日 曇り〜風雨(強風)  6日 濃霧 
 メンバー  単独
 行 程  東大鳥ダム〜泡滝ダム〜茶畑山〜オツボ峰〜以東岳 「西俣沢右俣滑降」
〜オツボ峰〜茶畑山〜泡滝ダム〜東大鳥ダム


5月4日(木) 東大鳥ダム4:45〜泡滝ダム(マタギ小屋)6:50〜茶畑山8:20〜オツボ峰14:18
          〜以東岳15:30〜以東小屋15:45
  5日(金) 以東小屋 7:20〜以東岳スタート7:38〜西俣沢右俣出合7:55 8:15〜以東小屋
         10:50 
  6日(土)
 以東小屋 6:15〜オツボ峰7:00〜三角峰7:30〜クレバス地点8:25〜茶畑山9:55
         〜泡滝ダム11:10〜東大鳥ダム13:08

 今年の連休は3年連続の朝日連峰詣でとなったが、今回はどうしてもトレースしておきたい以東岳の南面を選んだ。以東岳に登頂したのは34年も前の学生ワンゲル時代の話で、その後まったく訪れる事は無かった。以東岳に登頂する人は大鳥方面からも1泊2日コースで訪れる人が多いが、大朝日岳からの縦走組も多い様だ。しかし積雪期になると大鳥側からのアプローチは極めて悪く、長い林道歩きに加え、雪崩れを回避する為の茶畑山からの迂回尾根コースを歩く事が常識になっている。

 今回一日で以東岳に入るとなると茶畑山コースしか無く、久しぶりで荷物を軽量化して東大鳥ダムから歩き出した。この時期の大鳥池に至る登山道は雪崩れの恐れが有り、沢筋歩きを慣れた鉄砲打ちの人でも歩かない。大朝日岳から縦走して茶畑山経由で下る登山者はいるが、この時期逆コースで以東岳を目指す人は少ない様だ。


5月4日(木)
 今年の雪の多さは尋常ではない様で、泡滝ダムまでの途中で3箇所ほどのブロック雪崩跡が有り、その内の一箇所はまだ落ちきっていない模様。しかし雪が多い分スキーは履きっぱなしで歩き通せるので、あまり疲れを感じることも無く泡滝ダム手前のマタギ小屋に到着する。この広い渓筋の模様はかつて何度もかよった穂高の梓川周辺の雰囲気と似ている。それにしてもここ大鳥水系の水量は実に多い。

 小屋に到着すると昨日のクマ鍋の豪華な酒宴跡らしく、水場では大きな鍋とどんぶりの数々がその盛り上がりを物語っていた。下山後に聞いた話によると今回は2頭を仕留めた模様。先行者の様子を聞いてみると2パーティーが先行しており、最初のパーティーは茶畑山〜三角峰に至り、登山道を下って大鳥小屋に入った様だ。

  
 
 
上高地から横尾の雰囲気 崩壊して間もないブロック 本流までデブリが押し出す

茶畑山に至る尾根が良く見える マタギ小屋にはクマ解体の跡が マタギご用達のアイゼン
 茶畑山に至る尾根はかろうじて雪が繋がっている様子で、杉林から急な雪壁を辿ってゆくと一ヶ所所だけ潅木の露出した尾根があった以外、急な斜面をスキーアイゼンをつけて越してゆく。新しくなったロボット雨量観測所からジャンクションを越え、雪庇の張り出した尾根をクラックを避けながら高度を上げて行く。茶畑山手前になると3張りのテントが有り、3名の若い登山者が今から出発する所だった。最近は一人に一人張りのテント山行も有りなのか?話を聞くと以東岳方面には向かわずに茶畑周辺を散策するらしい。

 茶畑山からは戸立山までの尾根が見渡せるが、豊富な残雪で予想以上に素晴らしい景観で以外だった。左手には月山の西面が意外と近く望め、その左手には鳥海山の姿をはっきり見るが出来る。この尾根は視界が利かないと雪の上で方向を失ってしまいそうだが、こんな好天ではスキーツアーにうってつけの快適なコースだ。コースにはクラックがあちこちに走っているが、まだ崩壊する様子も無く慎重にクリアーして行く。戸立山直下の雪庇斜面は狭くて急だが、この間一ヶ所だけ15m程の藪こぎを強いられたものの、他はスキーアイゼンを利かせて強引に歩き通した。
茶畑への尾根を強引にスキーで登る 尾根から見る以東岳は実に遠い
となりは月山の雄姿が 尾根に上がれば快適なスキーツアーのコース
戸立山手前から茶畑方面を振り返る 戸立山東面には雪庇&クラックが連続する
 戸立山から三角峰まではアップダウンの少ない広い尾根だが、所々クラックが尾根沿いに走っており、慎重を期して尾根のブッシュとのコンタクトラインを選んで進んで行く。1548mピークからは小さいアップダウンを繰り返しながら進み、三角峰を過ぎて少し下ると大鳥池に至る登山道にぶつかる。スキーを外して少し下ってゆくと水場の標識が有り、ここからスキーを付けてオツボ峰に至る雪の斜面を左に巻きながら進み、直下の斜面をジグを切って登り切るとピークに立つ。眼下にはまだ真っ白の大鳥池の湖面が見渡せ、池を取り囲むようにしている化穴山、甚六山が素晴らしい。大鳥池を一周したらきっと素晴らしいツアースキーになるだろう。
 
視界が利かないといつの間にか雪庇の上 後ろを振り返ると 障子岳の西面

オツボ峰から以東岳方面 大鳥池の神秘的な姿に見入る
狐穴小屋から竜門山〜大朝日岳方面 以東岳東面右手の急斜面
 以東岳に到着する頃には出発してから10時間30分を経過しており、久しぶりの長旅となったが意外と疲れは感じない。快晴無風のこの恵まれた1日を感謝すべきで、誰も居ない静かな以東岳の山頂では独り占め出来る喜びを感じる。目標とする東面の斜面を物色してみると、オツボ峰寄りの急斜面が面白そうに見える。山頂付近からは西俣沢右俣に続く大斜面が現れ、どうやらこのコースが本命となる様に思えた。

 狐穴小屋から竜門山、そして大朝日岳に至る主稜線ははるかに遠く、さらに長井葉山まで全てスキーで走破出来たらどんなに素晴らしいだろう。(昨年の同時期にこのコースをクロカン板で歩いた方がいる。)この時期のルンゼの滑降も良いが、スケールの大きい主脈全山縦走なども興味深く、何時か時間が許せばトライしてみたいものだ。

以東岳山頂から大朝日岳方面 大鳥池側から吹きさらしになる以東小屋
以東岳山頂から三角峰〜茶畑方面 日本海に沈む夕日
5月5日(金)
 昨夜の以東小屋では大朝日岳から縦走してきた若い単独行者と一緒だだったが、早朝に茶畑山方面に向かって下山して行った。雪がやや緩むのを待って7:20に小屋を出発し、以東岳のピークから100mほどオツボ峰寄りにトラバースし、目標とする西俣沢右俣のドロップポイントに立つ。今日は曇り模様でやや気温が高いが、雪質は硬すぎず柔らかすぎず適度なザラメ雪でコンディションとしては良く、思い切って飛ばしても滑り易そうに思えた。

 適度な斜度の斜面からスタートして斜面の中間部を目指し、ショートターンで感触を摘みながら降りて行き、途中からはスピードに乗ってミドルターンとなる。斜面は雨で流された縦溝は無く、最近に新雪が降った様子も無いので斜面はフラットで均一。スピードに乗っても安定感が有り、落石などもまったく無いので快適そのもの。今年は特に積雪量が多い為かクラックも殆ど無く、どんどん快適かつ豪快に下降して行く。この広大な大斜面は竜門山の東面、北面の斜面より規模が大きく、朝日連峰の中では最も素晴らしい大斜面に思える。

以東岳からの大鳥池 以東岳東面の斜面(左手)
山頂から大斜面を思うがまま 硬すぎず柔らか過ぎず快適なザラメ雪
雨による縦溝も無く何処までもフラットな斜面 何処までも至福の時間
 500mほど下ると両岸が狭まってくるが板は相変わらず良く走り、どんどん下って行って標高1000mの右俣出合に達する。この先雪が豊富なので中俣沢の出合あたりまで下ってみたいが、傾斜が落ちてき事に加え風が出て来て天候が崩れてきた様子。下部はブロックが落ち切っていなく不安定で、ここが潮時と思って上り返しに取り掛かる。登り返しの途中でオツボ峰側に入り込んでしまい、気が付いて100mほど下ってから下降コースに戻った。しかし700mを上り返すとなると2時間程かかってしまい、途中からさらに風が強まってきたので以東小屋に戻り、様子眺めの為しばし休憩とする。

 当初は他に2〜3本のコースを考えていたがこの天候ではどうにもならず、結局小屋でそのまま一人宴会となってしまって本日の予定を早々と終了した。しかし大鳥池方面から吹き上げる風はさらに強まり、小屋全体が揺れるような暴風雨となってしまった。今日は狐穴小屋まで足を伸ばし、年越しビールの処分に協力しようともくろんだが計画倒れとなった。この視界も利かない悪天候では誰一人として以東小屋を訪れる人は居なかった。

西俣沢の左俣方面 調子付いてしまいもう止まらない
終点の西俣沢右俣の出合付近 東面の滑降コース (2004.05 竜門山から)
 5月6日(土)
 
強烈な風は何とか弱まったが今度は濃霧となり、小屋の周りの視界は10m位しか利かない。視界が利かないにでは山スキーにならず、また無理して滑ってもつまらないし危険でも有る。これではさっさと諦めて下山するしかなく、以東岳からは濃いガスの中登山道を歩いて下り、雪が出てくるとGPSを取り出して慎重に降りて行く。オツボ峰を越した辺りから風は弱まり、ここからはシールを付けたままで三角峰を目指して降りて行く。三角峰から先になると雪面に3人で下った足跡が有り、これを頼りに下ってゆくが途中で見失ってしまう。雪庇に注意しながら尾根のブッシュラインにコースを取るが、うっかりすると雪庇の先端方向に寄ったりする。

 戸立山への手前でクラックを越したとたん3mほど落下してしまい、スキーも外れてさらにその2m程下に落ちてしまう。表面は20cmほどの幅に見えたが雪が被って見えず、迂闊にも1mほどの幅から転落してしまった。幸い大事は至らず横に逃げて脱出も容易だったが、深さ8mほど有るクラックだったら脱出は困難だと思う。その後は慎重に行動して戸立山に辿りつき、その後はガスが徐々に晴れて風も弱まり茶畑山にはあっという間に到着した。流石にスキーの恩恵は大きく登り時間の半分ほどで下る事が出来、今年の雪の状態ではスキー山行が最適と感じた。

 茶畑山からは狭い雪庇をクラックを避けながら下降し、最後はロボット雨量観測所から下の左の沢を滑り降りてマタギ小屋に帰着。その後1時間30分ほど歩いてで東大鳥ダムにたどり着いた。

 今回の以東岳東面は他に記録らしきものが見られないが、まだ2〜3本くらいのコースは楽しめそうに思える。特に大鳥池を眼下に見て滑り込む姿を想像していたが実現せず、今度は何時また訪れる事が出来るか解らない。結果は歩き主体の山行だったが、茶畑山から以東岳の快適な歩きだけでも結構楽しいスキーツアーだった。林道歩きのアルバイトと長い尾根歩きを苦にしない物好きの方ならお勧めです。

西俣沢右俣の滑降コース 茶畑山からシールを外して泡滝ダムまで一気に下降

 
朝日連邦 東大鳥ダム〜茶畑山〜以東岳のコース