鳥海山 上ノ台コース(仮称) 2005.04




明るく開けた上ノ台の尾根は眺望が素晴らしい




【日時】   平成17年4月9〜10日
【山域】   鳥海山 上ノ台コース  ※スライドショー
【コース】  4月9日 升田7:00〜奥山林道〜尾根取付き9:00〜1050m地点10:00〜唐獅子小屋15:00
         10日 唐獅子小屋7:00〜外輪山8:25 滑降開始10:45〜1200m地点10:00〜奥山林道
             10:50〜升田12:05
【メンバー】 木村 荒井 坂野 
【天候】   4月9日 晴れ  10日 曇り

 
 鳥海山の山スキーコースは数多くあるが、山頂からの代表的なクラシックコースとしては、祓川コース、千蛇谷コース、百宅コースが良く知られている。その斜面のスケールの大きさ、雪の量の豊富さ、日本海を眼下にする抜群の眺望の良さは、今や日本を代表するメジャーコースの雰囲気さえ有る。人気のコースはアプローチに恵まれ標高差も1130mと手ごろな祓川コースだが、5月の連休中などは数多くの山スキーヤー、テレマーカー、ボーダーが押し寄せる光景となっている。
 
 昨年はタイミングを外してしまって鳥海山を訪れる事が出来なかった為、今季は当初北面の千蛇谷と新山の北面を予定していた。しかし最近同行する事になった木村氏から「上ノ台」と言う地名を始めて聞き、どうやら山スキーコースになりそうだと言う話を聞いた。「上ノ台」とは東面の百宅コースと南面の湯の台コースの間にあり、台地状に広がる広い尾根で奥山林道から唐獅子小屋上部で百宅コースに合流している。山頂から林道まで1750m、スタート地点の升田までは1980mの標高差を誇り、東北の山ではダントツのビックコースと言える尾根だろう。ただし、升田から尾根取り付き点へは片道6km奥山林道を歩かなければならないが、この時期の素晴らしい滑りを満喫できればその苦労は全て帳消しと言っても良い。

 4月9日
 昨夜の宴会疲れでまたもや出発が遅れてしまったが、朝から天気は良好で雪の林道を快調なシール走行で先を急ぐ。奥山林道は心配されたブロック崩壊も問題なく、途中2箇所でスキーを脱いでツボ足で乗り越し、2時間余りで尾根の取り付き地点の杉の植林地に到着する。取り付き点付近の標高は低いが今年は大雪の為斜面は充分な雪があり、狭くて急な雑木林の小沢の斜面も問題なくクリアーし、目的とする上ノ台左側の顕著な尾根に上がる事が出来た。今年の雪の量の多さはこの尾根上の雪庇を見ても一目瞭然で、5〜10mほどの雪庇が東側に発達し、最近の陽気で崩壊が始っている様子。しかし尾根上は広い雪の斜面が何処までも連続し、スキーでの歩きもブッシュに悩まされる事無く快適で、やがて視界が開けて来ると鳥海山の南東面が我々を圧倒する。
 
 暫くしてから上ノ台の全容が目に入ってくるが、予想に反し西側は顕著な尾根筋になっていてすっきりしており、コースは一目稜線で鳥海山の勇姿を見ながら北上し、余り疲れを感じることも無く快適に高度を稼ぐ事が出来る。南東面にはビヤ沢、本白沢が山頂にむかって食い込んでいるが、上部は快適そうだが下部は切れ込んでいて手強いように見え、余り安易には近づけない様にも思えた。やがて1200m程で森林限界となり、ここからは持ってきた標識を立てながら、広くなってきた斜面をほぼダイレクトに高度を上げて行く。


 天候も恵まれ、静かな大自然の雰囲気に浸っていると、何処からとも無く聞こえてくるエンジンをふかすスノーモービルの音。注意して見るとなんと唐獅子小屋上部の百宅コース上に2〜3台。おそらく頂上直下の斜面を勢い良く登っている様子で、大きく鳴り響く音で静寂が破られてしまい、せっかくの雰囲気は台無しといった所。しかも綺麗な雪の大斜面にはキャタピラの跡で蹂躙された状態で、ここまでやって来たスキーヤーの気持ちを落胆させる物であった。ここ最近、東北の各地でこういう光景が見られるようになって来たようだが、この国立公園、国定公園内での規制などはいったいどうなっているのだろうか?後で唐獅子小屋で会った別の地元スノーモービル協会の人の話によると、自主規制で唐獅子小屋までで頂上には行かない事になっているらしい。しかしその他の人はまったく野放しの状態と言う事では困った物で、何がしかの是正措置とか最低限のガイドラインなどが必要な時期にきているのでは無いだろうか?

 今日は好天に恵まれ予定外に唐獅子小屋まで入る事になり、1500m付近から大きく東にトラバースして百宅コースを目指すが、意外と距離が有ってなかなか小屋が見つからない。ようやく気が付くと建物の3分の2程埋まった小屋が有り、堅く氷付いた引き戸を苦労してこじ開けて中に入った。最近に建替えされた木造の小屋は造りもしっかりしており、断熱材も入っているらしく比較的暖かくて快適そのもの。石油ストーブに十二分な灯油と毛布にマットになる断熱材。良く見ると誰が運んできたのかダンボールに入った多くの食料。ラーメン、パックライスに缶詰、味噌、醤油、砂糖、ウイスキー等の数々。一人なら2週間は御滞在OK。毎度の様に早速宴会タイムに突入し、鍋を囲みながら誰にも遠慮することなく夜は深けて行ったのでした。

 4月10日
 天候はまだ崩れていない様子だったが今日は風が強い。天気予報では午後から崩れる予想なので、勝負は午前中ということになる。荷物を小屋にデポして新山を速攻往復とも考えたが、外輪山の直下からダイレクトに滑りたいと考えザックをパッキングして出発する。今日の気温は高めの為クラストすることなく登り易いが、やはりスキーアイゼンが有るとないとでは大きな差が出てしまう。スキーアイゼンなしの木村氏はやがてスキーを背負ってのアイゼン歩行となり、しだいに遅れて間の距離が伸びてくる。周りは次第に強風とガスに覆われ、視界が不良で時々晴れるのを確認して上部の斜面を目指して行く。余り無理をしないで視界が良好の時に途中から下った方が良いとも思えたが、残り150m程となってしまうと自然に足が頂上を向いてしまう。視界の効かない外輪山に近づくととたんに風が強まり、このまま立っているのも疲れそうでこの先の行動は絶望的となる。

 強風を避けながら後続を待ったが重荷に喘いでいるのか上がって来る気配が無く、視界も益々効かなくなってきたので木村氏には悪いが下降開始とさせてもらう。直下のアイスバーン斜面をエッジを効かせながら慎重に下り、岩陰を回り込んだところで後続と合流しから再び体制を整え、視界が効かないので元来たコースを標識を確認しながら下ってゆく。300m程下ると視界が開け、この先の上ノ台方面が確認できて後は迷う事は無い。唐獅子小屋上部の斜面から百宅コースを外れ、フラットでやや柔らかい斜面を快適に飛ばして行く。緊張感溢れる1〜2月頃の急峻なパウダー斜面をは異なり、開放感があってスケールの大きい大斜面の魅力もたまらい。自由気ままにノントラックの大斜面を滑る時のスキーも又別世界の様だ。しかもこの時期の鳥海山は頂上から林道までの雪質の変化が余り無く、快適斜面が頂上から何処までも連続するのも気分が良い。

 1200m地点で鳥海山を振り返り一旦休憩を取り、その後まるで伐採された滑降コースのような上ノ台の尾根を下り、殆ど登りなして標高450mの奥山林道まで滑り込む事が出来る。最後だけは藪混じりの沢筋の斜面だが、まだ雪の多い今時分ならまったく問題なく杉の植林地まで降りられる。外輪山から林道まで標高差が1750m、升田までは1980m有り、コースも明瞭でこれほどすっきりした滑降コースも東北の山では他に無いだろうと思う。
往路とは異って下りの林道は良くスキーが走り、快調なペース運びで下って行くと途中からは除雪された道路になっていた。ブルトーザーのキャタピラの跡は実に良く滑り、帰路は往路の約半分の1時間弱で升田まで到着してしまった。

 今度の上ノ台のコースは予想以上に快適な尾根で、快適度、満足度共に素晴らしい滑降コースと思う。特に雪の多いこの年のちょうど良い時期だったことも挙げられる。しかしこのコースは林道歩きが敬遠されての為か訪れる人も殆ど無いようで、2000年5月に祓川コースから唐獅子小屋小屋泊まりで上ノ台を下降した方以外、記録らしい物は見られない様だ。アプローチにやや難が有って一般的なコースとは言いがたいが、雪の多い4月中までならば十分に楽しめるお勧めのコースと思う。体力に自信の有る向きには升田からの日帰りも不可能ではないかも知れない。私にはとても無理な話ですが。

  
         奥山林道を2時間の歩き                 
上ノ台の顕著な尾根に取り付く

  
         今年の雪の量を物語る雪庇                     鳥海山南東面の斜面

  
          快適、明瞭な尾根を行く                     圧倒的な姿を見せる鳥海山
 
  
          上ノ台の尾根は右に落ちる                      唐獅子小屋への大トラバース

  
          ようやく見つかった唐獅子小屋                 埋もれた小屋の扉は中々開かない

  
          外輪山直下は強烈な風                      スキーアイゼンが無いと辛い

  
          雪質は適度な柔らかさ                       開放感が広がる斜面が続く

  
         ロングターンで快適斜面を下る                     1200m地点で一本

  
           山頂は既にガスの中                       右のスカイラインか今回のコース




上ノ台コース MAP