【コースタイム】
9月23日
日暮沢小屋5:30〜日暮沢のコル7:00〜見附川本流8:45〜オバラメキ沢出合9:25〜高松沢F1 11:50〜850m2:15〜950mビバークテラス16:30
9月24日
ビバークテラス6:05〜下部ゴルジュ終了6:40〜二俣ゴルジュ入り口7:10〜上部ゴルジュ終了9:06〜北寒江11:08〜竜門小屋12:30 13:15〜清太岩山2:15〜日暮沢小屋16:00
【天候】 23日 晴天 24日 晴天
【メンバー】 荒井 石井 坂野
朝日連峰の見附川流域、根子川流域は仙台からのアプローチが良く、ヒマなし沢屋にとっては1泊2日で楽しめるコースが何本か有る。今回の高松沢は日本登山大系には載っていないものの、数少ない記録を見ると登攀的な要素が強く、比較的明るい充実した沢の様子が伝わってくる。
この沢は竜門山に至る清太岩山から上部を見る事が出来るが、中間部に見事な大滝が落下していてかなり目立った存在でもある。しかし大滝から先は尾根に隠れて見えず、上部ゴルジュの連瀑帯の様子を窺がう事は出来ない。今回も見附川の下部本流はショートカットし、日暮沢からの山越えで入るコースを取り、軽量化を図ってのスピードアップを目論んだ。
【概要】
9月23日
前夜に日暮沢小屋に到着してみると意外と車は少なく、いつもなら30台位の車でいっぱいになっているはずが約半分ほどの数。どうやら台風の接近で悪天候を嫌い事前に中止したか、または別の山域に転戦していったのだろうか。
日暮沢からのコースは頭に入っているはずだが、コルを越えて見附川に下った所どうも様子がおかしい。本流に降り立ったはずが妙に水量が少なく、気が付いて見ると1本先の上流の沢に下りてしまった様だ。2年前は視界が無いので地図を確認して慎重に越えたが、今回は晴れていてすっかり油断してしまい,最初の二俣で誤って左俣に入ってしまいコルを間違えてしまい、い加減なルーファイでこんな結果となってしまった。
見附川に降り立つと水量は少ない感じだが急に水の冷たさを感じる。天候は申し分ないが気温が低く本流の冷たさが身にしみる。稜線に上がって後で解った事だが、本流筋の上部イリトウヌシ沢には豊富な雪渓が残されており、胸まで漬かると身震いするような寒さを感じた。
最初は単調な本流歩きだがやがてゴルジュが現れ、へつりを交えながら進むと深いトロ場が登場し、落差の小さな滝を2〜3本越して行くとオバラメキ沢の出合には豪快な20mの滝が掛かる。さらにこの先もゴルジュが続くが高巻1回で特に難しい箇所も無く、水量も少なめなので出だしとしては順調に進んで行く。しばらくすると河原歩きとなるがどうやら最近釣師が入った形跡が有り、魚影を期待したがそれらしき姿は見られなかった。
高松沢の出合に近づくと狭まったゴルジュのトロ場となるが、この冷たさでの突破となるとその気力がわかず、2年前の増水時と同じく手前の左岸のブッシュに取り付いて高巻トラバースに取り掛かる。30分の高巻で高松沢の10m2段目の滝に懸垂なしで降り立ったが、ここからが高松沢の核心部となる下部ゴルジュの始まりだった。2年前のイリトウヌシ沢遡行の時にはここから対岸の尾根を高巻いて再び見附川本流に戻ったが、目指す高松沢はゴルジュの中に滝が次々と出て来て我々の前進を阻む。
滝は3〜6m程だが深い釜をもったゴルジュの滝には手におえず、右に左に巻いて高巻を繰り返し次第に高度を上げて行く。この間は殆ど登れる滝は無いが大きな高巻やいやらしい草付きも無く、時々ロープを出しながら順調にペースを上げて行く。ゴルジュ内の3mの滝は大きな深い釜をもっており、左から高巻いてから15mの懸垂で沢床に降り立つ。
次に出てくる6mの滝はトップが左の凹角にザイルなしで取り付いたが出口が悪く、結局戻って手前の右岸から高巻いて越えて行く。しばらく進むと少し開けてきたが今度は8mのCS滝となり、直登は出来ず右のバンドからのトラバースを目指してトップがロープを付けて取り付く。しかしブッシュ混じりの草付きからバンドに抜ける箇所が悪く、スリップしてしまって釜にドボンを落ちてしまう。何度かトライしたが結局ギブアップして右から高巻いたが、フォローでトラバースを強いられるとなると心穏やかではなく、正直なところもう止めてくれと喉もとまで出かかっていた。
ゴルジュはいったん無くなって開けてくるが、心配した雪渓も無く余計な仕事がない分遡行を満喫できるのはありがたく、イリトウヌシ沢のような連続した緊張感を感じる事も少ない。このゴルジュは次第に歩き易くなり、周りの見事な景観を楽しみながらの快適遡行が続く。この辺りから朝日特有の低い潅木帯が周りの渓を埋め、いかにも豪雪地帯の深い谷底という雰囲気が溢れてくる。
再びゴルジュが迫って左から滝が掛かると沢は右に折れ、開放的なV字の明るい渓を詰めて行くと大滝が迫ってくる。最初はあまりスケール感を感じなかったが、近づいてみると3段の70m位ある見事な大滝の登場だった。傾斜の落ちた下部にロープを付けて取り付いて1段目をクリアーし、水流をまたいで右から傾斜の落ちた2段目をロープなしで快適に越える。すると3段目の滝が現れるが傾斜が強く、シャワークライムを覚悟しないと登れそうにはない。
時間は既に16:00を廻っていて今頃濡れる訳にも行かず、左から流入する狭いルンゼから巻いて尾根越えで突破を試みる。結局ルンゼを10mくらい詰めて潅木帯に入った所で畳2枚くらいの平坦地を発見し、草を刈り取っ整地して快適なビバークテラスとする。水場もすぐ近く焚き木も豊富で夜は酒も進んだ。
9月24日
朝日の差し込むビバークテラスを6:05に出発すると、待っていたのはいきなりの高巻で結構息が上ってしまう。意外と容易に沢床に下りるとその先には更なる滝が続いており、結局この大滝の基部から最上部まではおよそ100m位高度を上げた様だ。沢を次第に左に回り込むを急に開けた河原となり、前方には高松峰を初めとする稜線が見えて雰囲気は一変する。このあたりになると快適なビバークサイトには不自由しない。
この先は開放的な河原歩きとなるが空は抜けるような青空で、昨日より気温も上がって素晴らしい秋の沢登り日よりとなる。5mほどの2本の滝を越えて行くと二俣になり、左の本流は見事なゴルジュの連瀑帯となっている。
最初の8mのCS滝は右の草付きを登って越え、小さな滝を2〜3本越えて行くと2段25mのCS滝に突き当たる。滝はくの字に曲がった複雑な形状の滝で、中央部に恐竜の背中のようなツルツルのカンテとなっており、突破口はいやでもここを攻略するしか無い様だ。
ロープを付けたトップはツルツル滑るくの字部分を越え、中間部に深い釜を持ったカンテに取り付く。折れ曲がって錆びた残置ピンが1本あるが、その先の上段に移る所が特に悪くかなり微妙な箇所だ。フリクションで強引に突破して行くが、右は真ッ逆さまの垂壁なので緊張する。その後も3〜5mほどの滝が連続して気が休まらないが、殆どは直登出来るので登り応えは十分にある。途中で出てくる6mの滝は右がチムニー状になっており、トップは空身で上がって3人ともザックを荷揚げする。
ここを突破するとやがて上部ゴルジュ帯は終了し、渓は平坦になって大きく広がり、高松峰から狐穴小屋へ至る稜線もかなり近づいてきた。次第に広いゴーロ帯から急なガレ場となり、源頭部は左から2本の小沢が流入し、途中で20mの滑滝、10mの狭いルンゼを経て高度を上げてゆく。途中でフェルトワラジを脱いでスパイク地下足袋となり、体力勝負で最後のコースを三方境と北寒江山とのコルにとる。やがて150mくらいの草付きを登り切るとようやく登山道に飛び出した。
今シーズンは1週間ほど紅葉が遅れている様で、主稜線の眩いばかりの光景を見られなかったのは残念だった。下降コースは竜門山〜日暮沢小屋にとったが、途中で立ち寄った竜門小屋では管理人の遠藤さんからキンキンに冷えた自然水を差し入れて頂き、実に満足至極の日々で有りました。ただ感謝、感謝。
下部の見附川は流石に水量もあり朝日らしい本流歩きで楽しく、高松沢は下部のゴルジュ帯、深い釜、連瀑、大滝と次々と変化し、上部では広く開放的で穏やかな流れの河原から連瀑帯のCS滝直登、最後はナメ滝から容易な草付き帯を経て終了する。このような朝日の沢のエッセンスが溢れる沢は実に楽しく、また登り応えのある滝も数多く内容的に素晴らしい。朝日の沢ではこれまでに無い充実感を感じる山行だった。突破屋さんはご苦労様でした。
チムニー滝はザックを荷揚げする
高松峰〜狐穴小屋に至る稜線が近い
花畑を通過して最後の詰めへ
最後に登場する10mのルンゼ
後は最後の体力勝負のみ
登山道に飛び出して北寒江山を目指す
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