2006年 沢歩きの記録

 2006年 8月20日(日)
 神室連峰 根ノ先沢本谷  スライドショー

 
 神室連峰の根ノ先沢は中盤からゴルジュと滝が連続し、一番人気の大横川に続き多くの沢屋サンを魅了する代表的な沢だ。もう25年位も昔だが一度左俣を遡行した事が有るが、その当時は本谷を日帰り遡行する人は少なかった。

 その理由は神室岳に通じる登山道が未整備で、根ノ先沢を遡行した後下降路は神室岳〜小又山〜火打岳〜新倉見のロングコースを覚悟しなければならなかった。しかしその後根ノ先沢出合から天狗森を経て小又山に至るコースが開かれ、さらには同地点から北側の十里長峰を経て神室岳に至るコースが開かれ、面白そうな周遊コースが完成した。南面から日帰りで神室岳を往復が出来る事は沢屋とっても朗報で、根ノ先沢本谷もアプローチに恵まれて入り易くなった。

【天候】 曇り
【コースタイム】 
神室岳登山口(出発)5:20〜二俣6:17〜左俣分岐7:16〜本谷二俣〜2段25mの滝8:10〜雪渓高巻9:50〜30m滝〜最後の二俣11:30〜登山道14:15〜神室岳14:40〜15:15〜十里長嶺〜神室岳登山口(帰着)17:15
【メンバー】 
荒井 坂野

 止めておけば良いのに入山祝で調子に乗ってしまい、3時間ほどの睡眠で半分眠ったようにして5:20AM根ノ先沢出合を出発。暫く重い体で平凡なゴーロ歩きを続けるとやがて461mの二俣になり、水量の多い右俣を進んでゆくと深い釜を持ったゴルジュとなる。トップは泳いで突破しようとしたがどうも朝の調子がイマイチで、いったん戻って左から簡単に高巻いて沢床に戻る。

二俣の後いきなり泳いで見るが・・・ 暫くのゴーロ歩きが続く

 再びゴーロ歩きが出てくると小さな魚影が見られるが、そのまま先に進んでゴルジュ帯に入る。4〜7mくらいの滝が4本ほど出てくるが特に難しい箇所は無く、次第にペースを上げながら進んで行く。ここまではあまり高度を稼ぐ事は出来ないが、釣りを楽しむにはちょうど良いポイントとなる。再び魚影が見えたのでテンカラ竿を振ってみたが、私のようなヘボ釣氏は魚にまったく相手にされず、すぐにザックに仕舞い込んで遡行に専念する。本谷は10時間ほどを覚悟しなければならず、あまりのんきに遊んでいるヒマはない。

 この先は3mほどのたいした事のない滝だが、両岸が立っていて取っ付き難そうなので左から容易に高巻く。沢床に戻ると次第に上部の視界が開け、ガスに覆われた神室岳山頂方面の稜線が見えてくる。やや広くなった河原を行くとかつて遡行した左俣が合流し、今回は水量の多い右の本流コースを取って本谷を目指して行く。

 本谷は小滝が連続してゴルジュとなるが、小滝群は右岸を巻いて越えて行くと広くなった河原状となる。やがて616mの二俣に到着するが左俣の本谷の入り口は予想外に狭い。両岸が狭まって屈曲しながら行くと左から10m程の滝が出て来て行方を遮る。ここでロープを出して左から取り付くが出だしが悪い。上部の残置ハーケンでランニングを取って左にトラバースし、ブッシュ帯に逃げて1段目の滝をクリアーする。

 上がって見るとさらに奥まって深い釜をもった12m2段目のCS滝が現れるが、どうにもならないので両側が切れ落ちた左のブッシュ帯から高巻き、沢床は見えないが20mほど登ってから感を頼りにトラバースして下降する。ここから先は本谷らしくゴルジュと5m、7mが連続して次第に高度を上げて行く。少し足元が涼しくなってきたと思ったらいよいよ雪渓が登場するが、右岸に1ヶ所引っかかっている構図は不安定な様子。「ズシッ」と言う鈍い音を聞いてしまうとなんとなく気が引けてしまい、左岸の急で悪い草付にロープと出して取り付く。

 20mの懸垂で沢床に降りて2段5m、6mの快適な滝を越え、崩壊したブロックを2ヶ所ほど慎重に越えて行くと、傾斜が急になってきただけに疲れも出てくる。両岸が狭まって草付の急な斜面となるが、幸い心配した雪渓はこの先出て来ることは無く、ようやく先の見通しがついて来た。神室らしいV字谷の滝は5〜10m程だが快適で、空も次第に開けて来て順調に高度を上げて行く。次第に水量が少なくなって来る頃に核心部と思われる30mの滝が出くわす。

 ロープを着けてトップは正面から取り着くと残置が2本ある。しかし滝の出口は逆層で悪く、一旦降りてから右側の流芯から乗り越えてクリアーする。お気軽なラストは迷う事無くユマールを取り出し、グイグイとロープに全てを預けていとも簡単に落ち口に立つ。時計を見ると大体予想通りのコースタイムだが、このままのペースを保つ為にはあまり手段に拘っているいる場合ではない。

 トップはあくまでの本谷を忠実に辿る事に拘っているらしく、左側の登山道に早く逃げたいと思う姑息な私とは気力がまったく違っていた。最後の二俣が現れて右を選ぶと5mの滝となり、ロープを着けて越すとその奥には5〜7mほどの滝が連続する、3年前の大横川でもそうだったが、核心部を越えればもう楽勝とさせてくれないのが神室の常。上部になってくると独特の黒く滑った幅の狭い滝が現れ、再びロープを着けながらの気の抜けない難行が続く。時々いやらしい空滝と急な草付を乗り越え、何度と無くお助け紐を借りながら上部を目指して行く。

 次第に水流も殆ど無くなると急峻なゴーロの連続となり、いきなり疲れの出てくる最後の詰めとなってくる。次第に草付模様となってくると自慢のスパイク地下足袋の出番がやって来て、フェルトわらじを脱ぐと足元も軽く感じられ、ガスで覆われた草付の斜面をスパイクを効かせながら上部を目指す。最後は20mほどの薮を漕ぐと目指す登山道に飛び出した。

 すっかりガスって周りは静まりかえっていたが、二人共初めての神室岳はどうしても登頂したいだけに、くたびれた足を引きずる様にして我慢の歩きを20分間続け登頂。時間帯が遅いのか頂上には人影も無かったが、ぬるい缶ビールを開けながらもゆっくりと今日の苦労をねぎらった。

 下降路は十里長嶺のコースを取って出発点に戻ったが、かなり疲れ切った体にはスピードも鈍って下降が辛かった。しかしこの登山道は幅も広くて整備が行き届き、地下足袋の足裏には枯葉の柔らかい感触が伝わって心地が良い。最近の飯豊、朝日でも主稜線の登山道は土砂の流出、岩の露出などが見られ、荒れ果てたコースは中央山岳地帯と変わらぬ雰囲気がある。

 しかし、1日中誰にも会わずに過ごしていると、いまだに原始性を保った様な登山道は、30年前と殆ど変わらない静かな山行を行う事が出来、何か幸せな気分を味わう事が出来きて満足だった。
 

        意外と厄介な小滝が出て来て気が抜けない


快適なゴルジュを越えてさらに前進

本格的なゴルジュ帯を行く

2段の滝の下段10m

不安定な雪渓の高巻きの後20mの懸垂

懸垂で降りた後の雪渓を振り返ると・・・

滝が続き次第に高度を上げてゆく

意外と雪渓は途切れてこの先も順調に進んで行く

殆ど直登出来る快適な滝が続く

本谷30m核心部の滝を直登する

本谷は右の黒い5mの滝を越えて行く

本谷上部から稜線を見上げると・・・




根ノ先沢本谷遡行ルート MAP
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