朝日連峰で釣りをする願望は強かったが、沢登りにも何がしかの未練を引きずっていて中々実現はしなかった。沢屋も釣り師も同じフィールドで遊ぶ事に変りは無いが、その動機やら、目的、価値観などはまるで違っているようだ。
沢屋は常に山頂を目指しているので上しか見ていないの対し、釣り師は水面の中に潜む岩魚に鋭い視線を向ける。沢屋は激流・滝・ゴルジュの突破に情熱を傾け、釣り師は沢の中の自然な水芯の中の魚を求める事に夢中になる。沢屋は山頂までの戦いを至上の喜びとすると、釣り師は魚止めまでの限られた区間で岩魚との戯れを大事にする。
そして大きな違いは時間の流れにあって、沢屋は時間との戦いでエネルギーを消費し、釣り師は時間から解放された世界に最大の安らぎを求める。
自分は何となくパートターマー的な沢屋だが、隣の世界にちょっかいを出すのも嫌いではない。今回は西川山岳会の上野さんに同行させてもらい、朝日連峰での釣りのイロハを教えてもらう事と、星空のテン場で楽しい時間を過ごす事を目的に三面方面へと車を走らせた。
【天候】 7月20日 晴れ 21日 晴れ
【行程】
20日 三面駐車場〜岩井又沢出合〜F3〜ウデコイ沢出合(テン場)(行動時間 9.5時間)
21日 ウデコイ沢出合〜ゴンジロウ沢出合〜F3〜岩井又沢出合〜三面駐車場 (行動時間 10時間)
【メンバー】 上野 坂野
【概要】
7月20日 前夜に三面駐車場に到着してみると車は意外と1台だけで、梅雨明け一番の筈が翌朝到着したのも2台だけで静かな雰囲気だった。何時に無くのんびりと出発して三面小屋方面の登山道を進み、朝のすがすがしい見事なブナ林の中を歩いて行くと間もなく岩井又沢の出合付近に下ってゆく。
意外にも朝一からの泳ぎを嫌って三面本流の左岸からの高巻コースとなるが、間もなく平坦な薄暗い広いブナ林を進んで行く。暗くなると方向を失ってしまいそうだが、通い慣れた上野さんの後に続いていったん岩井又沢に降り立つ。更に枝沢から再び右岸の平坦なブナ林を通過してF1手前に降り立ち、すぐさま左岸からの高巻にかかると歩き易い緩斜面となる。
沢に降り立ってからは思わず竿を出したくなるが、釣り場はまだ先の為に我慢して胸までの徒渉と泳ぎを繰り返す。幸い雨不足で水量が少なく、泳ぎがまったくダメな自分でも、ザックの浮力に助けられると意外とスムーズに通過する。F2を過ぎる辺りから岩魚が姿を見せ始め、殆ど滝の無い釣り向きの沢筋には多くのポイントだらけにも見える。
F3手前の辺りで上野さんからのお許しが出て、4.5mのエサ竿を改造いたテンカラ竿にラインを結び付けて毛鉤を飛ばしてみる。しかし、自作の毛鉤はすぐ沈んで見えなくなり、急流に流されて向こう当たりなどもあるはずが無い。これを見かねた上野さから自作の毛鉤をもらい、オイルをまぶして浮力を付けて水面に浮かす。すると毛鉤は垂直に立って驚くほど見え易く、岩魚が接近するとその反転する動きが解り易く当たりが出てくる。
最初の一匹目は23cmくらいの小さな岩魚だったが、朝日連峰で掛けたのはおよそ3年ぶりなので実に嬉しい。最初は合わせが遅れたのかすぐバラしてしまい、タイミングが取れず失敗の連続だったがそれでも実に楽しいものだ。毛鉤の立ち方が悪いと当たりは取れない様で、毛鉤の形と糸の方向を直すと又当たりが戻ってくる。
暫くすると2匹立て続けに掛かると何となく自信も出て来て、ようやく釣りらしい雰囲気になって来て調子は上がって来る。しかし、きれいに巻かれたパラシュート型の毛鉤は釣果は抜群で、シロウトの自分でも思わず中〜上級者になったと勘違いしてしまいそうだ。
そんな様子で調子を良くして釣り上がっていた時、25mほど先の右岸上流に何か黒い影が動いたと思った瞬間、良く見るとそれは小さな小熊を連れたメス熊だった。先に気が付いた自分が上野さんに合図を送り、前を向いたまま少しづつ後退して行くと、親熊のほうが先に察知したのかやがて薮の中に姿を消した。きっと親子の熊もこの暑さで喉が渇き、冷たい沢水を求めてやって来たのだろう。
やがて最も大物が狙えるF3の大きな釜に到着すると上野さんの出番で、フライロッドにラインをセットして毛鉤を遠くに飛ばす。ピンポイントで対岸の深場を狙う技は流石で、何処に飛んで行くか解らない自分の毛鉤とはかなり違う。次第に型も大きくなって来るとたまに尺物も混じるようになるが、自分も後に続くがそんなに急に調子が上がるはずも無い。
やがてウデコイ沢出合の左岸の砂地をテン場と決め、、マキを集めてテントを設営すると冷やしたビールで乾杯を行う。渓が広くて明るい砂地のテン場はまるで理想郷で、何処かの雑誌に載っている様な快適な環境。いい加減に酔いが廻った頃には夕マヅメの時間帯となり、目の前の水面に毛鉤を流すと当たりが取れる。
今夜の酒の肴は定番の刺身・塩焼き・ムニエル風炒め、それと素焼きにした岩魚に酒を注いだ骨酒は欠かせない。厄介者のメジロに悩まされる事も無く、石のベットに横になりながら、冷え切った体を焚き火で暖めると思わず酒が進んでしまう。こんな暮らしなら毎週やっても良いくらいだ。
7月21日 朝、目が覚めると一杯のコーヒーが又旨く感じる。調子に乗って大事な缶ビールまで手を付けてしまうが、テン場に荷物を残したままに7:30頃ようやく上流にに向けて出発する。渓は広がってゴルジュや滝も無く、沢屋には退屈だろうが釣り師にとっては格好のロケーションとなる。
広い川ではポイントが絞り難く苦戦するが、コンスタントに釣るベテランとなると流石に技量が違う。あんな所から岩魚が出てくるとは想像出来ない事も多く、付いて歩くだけでも良い勉強になってしまう。ゴンジロウ沢の出合で竿をたたみ、テン場に戻ってこの時期なら定番のソーメンを作る。薬味をたっぷりと効かせると食が進み、いくらでも胃袋に収まる様だ。最後のカンビールを空けながらの昼飯は格別で、やっぱり夏はこれに限ると納得する。
帰路は沢を戻るだけだが、登りと違って連続するプールにドボンとつかり、後は流れに身を任せて下って行く。水の中は熱過ぎず寒すぎず快適だが、午後遅くなって日陰に入るとやはり寒さを感じて体が冷え、時々日の当たるところで小休止しながら下降して行く。3回ほどの高巻は厄介なところも無く、最後は高巻をしないで泳ぎで下って三面川の本流に辿り着いた。
今回は梅雨明け宣言の直後だった為か先行者は無く、しかも最近殆ど人の入った形跡の無い最良の釣りだった。シロウトでも少しは釣れるのが岩魚釣りの魅力だが、我々は更にタイムリーでしかもラッキーだった。天候も熱からず寒からずでちょうど良く、厄介なメジロの攻撃を受けなかったし、随分と良い思いをさせてもらったことに感謝しよう。
なお、小国からの蕨峠超えには2ヶ所のゲートが締まっていますが、施錠はされておらず簡単に開閉は出来ます。詳細は不明ですが三面ダム〜村上方面が通行止めになっている可能性があります。
雪渓が出てくるゴンジロウ沢の出合
急流に鍛え抜かれた岩魚
夏の定番昼食 「ソーメン」
帰路ははドボンと浸かって流れ下る
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