朝日連峰 竜門山・西朝日岳東面のルンゼ 2004.05
@赤倉沢左股 A入りトウヌシ沢 B横松沢右股
竜門山東面の斜面 中央は大朝日岳
【山域】 朝日連峰 (山形県)
【滑降コース】@5月2日 赤倉沢右俣(根子川支流) A5月2日 入リトウヌシ沢(見附川支流) B5月3日 横松沢右俣(根子川支流) ※スライドショー
【期日】 2004年 5月1(土)〜3日(月)
【コース】
5月1日 根子〜日暮沢〜清太岩山〜竜門山〜竜門小屋
5月2日 竜門小屋〜竜門山(1688m)〜赤倉沢右俣滑降(900m地点)〜竜門山〜竜門小屋竜門小屋(1570m)〜入リトウヌシ沢(1350m地点)〜竜門小屋
5月3日 竜門小屋〜竜門山〜西朝日岳(1810m)〜横松沢右俣滑降(1180m地点)〜主稜線(1725m)〜竜門山〜竜門小屋〜竜門山〜清太岩山〜日暮沢〜根子
【メンバー】 単独
【天候】 5月1〜3日 快晴
【用具】 ピューマ シンテシ 165cm 、 ディアミール フリーライド、 ガルモント G−ライト
【概要】
山スキーの盛んな東北地方にあって、なぜか記録の少ない朝日連峰の沢筋の斜面は以前から気になって所だった。何時もはこの時期、飯豊連峰の入門内沢、石転び沢周辺を滑っていたが、このエリアは殆どの主稜線沿いの沢筋が既にトレースされており、新鮮味に欠けるような気がしていた。今回、朝日連峰の5月としては始めての山行で、このシーズンの雪の斜面の状況は殆ど知識が無かったが、地図から適当な斜面を選で4本程の目標を決めて入山した。当初の予定では、以前から大変興味のあった大朝日岳のY字雪渓を考えていたが、最近になりスノーボダーの方が滑っている記録を見て考えを変え、比較的アプローチの良さそうな竜門山周辺に目標を絞り、2泊3日の予定で竜門小屋定着スタイルで少し遊んでみようかと考えた。
5月1日
仙台を4:30AMに出発し、根子部落に到着したのは6:30AM。着いてみると西川山岳会の遠藤さん、佐藤さん、他4人のメンバーが竜門小屋に向かって出発の支度を済まし出発しようとしている時だった。15分程遅れて出発するとやがてアメリカ橋で追いつき、その後は一緒に同行させていただいた。この時期は日暮沢小屋までは除雪がされてなく、片道2時間のアルバイトが常識になっている。殆ど雪は無いのだが、所々50cmから1mほどの雪があって車の通行は不可能となっている。途中で熊打ちのスノーモービル5台が雪の無い砂利道を勢い良く走り去っていった。
日暮沢小屋で「自然水」をプシューと開けて大休止の後、体調を整えて竜門小屋をめがけて急な登山道の登りに取り掛かる。急な尾根を越えると雪が出てきて、比較的広いブナの樹林帯に広がる雪の斜面を、キックステップを効かせながら高度を上げて行くと、やがて視界が開け朝日連邦の主稜線が姿を現す。ちょうど良いポイントに到着すると何処からと無くプシューという音がし、休憩が多くなかなか先がはかどらない。とにかくとどめなく自然水が出てくるのには感心してしまった。
1226m付近の雪庇を乗り越える 上部は快適な雪稜の登高
清太岩山にようやく到着し小休止を取っていた時だった。先頭を行く佐藤さんが突然「熊だー」と叫んだところ、左手下の沢筋で熊を発見。熊は突然の声にビックリしたらしく、稜線方向へ登っていたがUターンして急な雪の斜面をグリセードするように沢を滑り降りていった。するとその後間もなくすると「ズドーン」というようなライフルの射撃音が3発ほど谷全体にこだました。その後さらに下の方で5〜6発、その後また5〜6発。不幸な熊は我々の騒ぎのせいで仕留められたのか、または逃げ延びたのか?しかし勢子役となったの罪深い本人はあまり気にする様子も無く、大井沢に戻ったら権利を主張して熊なべをせしめるような勢いに見えた。
竜門山の直下に近づくと、既に竜門小屋に入っていた西川山岳会の柴田氏が、鮮やかなスキーさばきで山頂から降りてきて我々を出迎えた。やがて全員が小屋に入ると、ザックから次々に出てくる「自然水」の数々。迷うことなくこれまでの疲れを一気に吹き飛ばすような、楽しい宴会に参加させていただいた。
高度感のある斜面 清太岩山までの距離は長い
赤倉沢左俣上部の斜面 竜門小屋直下の入リトウヌシ沢左俣上部
5月2日
昨日に続いての晴天。狐穴小屋へ向かう西川山岳会メンバー4名、大朝日岳に向かう同じ2名と別れ、目標である竜門山東面の滑降を目的に赤倉沢右俣源頭の斜面を目指して7:40AMに小屋を出発する。比較的気温が低く、斜面は良く締まっていてルンゼの滑降にはベストコンデションと思われ期待が膨らむ。竜門山頂直下の斜面を充分に確認し、雪庇の切れた急斜面をドロップポイントに決め、身支度を整えて8:30AMにスタート。出だしは比較的急な斜面だが、下部斜面が良く見えて雪が締まっていてエッジが切れるので何の不安も感じない。急斜面をショートターンでスピードをコントロールしながら降り、200mほどで傾斜が落ちて広大なカール状の斜面が広がる。斜面を下降するに従い素晴らしい、大斜面を独り占めしたような満足感に浸りながら滑り降りる。赤倉沢の右俣、左俣の分岐を通過して小休止し、滑ってきた斜面を振り返ると明るく広大な壁のように見える。飯豊の入門内沢のようなスケールと豊富な雪の量は、スキーヤーにとってはまたとない素晴らしい世界で、見上げながら思わず何本かのコースを想像するのも楽しいひと時である。
竜門山山頂から清太岩山方面の日の出 竜門山山頂から以東岳方面
さらに下降すると次第に沢は狭まり、やがて滝が出現してさらに降りると右岸からのブロック雪崩れで沢中埋め尽くされたデブリの山にたどり着く。この先の下降も可能だが、稜線までの登り返しを考えて今回はここで終了とする。残念ながらデジカメのバッテリーが消耗し、記録を残すことは出来なかったのが悔やまれる。ここから竜門山までは790mの登り返しとなるが、明るく開けた広大な大斜面から大朝日岳まで見渡しながらの快適登高。
11:20AMに誰もいない竜門小屋に戻って大休止。腹ごなしをした後今度は竜門山北面の入リトウヌシ沢(見附川支流)を目指して小屋を出発する。スタートしてから間もなく沢の全体が見えるポイントでコースの確認を行う。斜面を下って見ると予想以上の広さと豊富な雪の量で、東面に劣らず素晴らしい大斜面だと改めて認識する。緩やかな斜面を下り下部の様子を確認する。予定していた右俣のルンゼは雪庇の崩壊で中間部からブロック雪崩れが発生しており、予定を変更して右にトラバースして左俣側の大斜面に逃げる。そのまま斜面を滑降すると1320m地点でデブリ発生地点付近となり、その下は滝の流れる音がしてここで終了とする。その後は竜門小屋まで250mの上り返し。14:00竜門小屋に帰着し、その後は西川山岳会の皆さんとの大宴会に参加させていただく。
広大な竜門山東面(赤倉沢左俣)の上部斜面 竜門山北面(入リトウヌシ沢)の上部
5月3日
3日目の朝も晴天が持続し、今日もやるぞと気合を入れて7:00AM元気に小屋を出発する。目標は竜門山を越えて西朝日岳に至り、東面の横松沢(見附川支流)を下降し、再び主稜線迄登り返そうという計画を立てた。竜門山から先はシール登高も可能だが、シールのセットが面倒なので、主稜線上はツボ足でで行動する。西朝日岳からは大朝日岳西面の斜面が良く見え、東面の女性的な美しい斜面とは打って違った、東俣沢(荒川支流)上部の荒々しい急峻で狭い男性的なルンゼ上部のが見える。沢登りでは全国的に名の知れた困難な荒川源頭の沢だが、果たしてスキーの対象にはどうだろうか東面と比較すると雪の量は少なく、ルンゼの幅は狭く急峻である。
西面、荒川源流のルンゼ 西朝日岳から横松沢右俣への斜面
西朝日岳の山頂で予定の横松沢を観察するが、東側に緩かで広い雪の斜面が続きその先は尾根に遮られて下部は確認できない。昨日の赤倉沢と比べるといささか緊張感に欠ける感じで、降りれば何とでもなりそうな雰囲気なのでそのままスタートする。8:40AM、西朝日岳の山頂からスタートし、横松沢右俣に入るため緩やかな斜面を北にトラバースした後、適当な所から右俣を目指して下降する。昨日と違って気温が高く、思うようにスキーが走らないので意外と疲れる。赤倉沢と違って斜面全体の傾斜が緩く沢が浅くて狭い為、昨日と違って見劣りがする感じで物足りない。1180m地点で左俣との合流地点で左岸からのブロック雪崩れ後が出てきて、スキーの滑りも悪くなってきたのでここで終了とする。こから主稜線までは550m程の登り返しが待っている。登り返しは緩やかな斜面を竜門山方面にトラバース気味に登り主稜線に登り、シールを付けたままで竜門山頂まで戻る。ここでシールを外し、後は竜門小屋まではあっという間の滑りで11:10AMに帰着。
竜門山から見る東面の大朝日岳 竜門山山頂と清太岩山方面の尾根
管理人の遠藤さんに熱いコーヒーをご馳走になって一息つき、後は身支度を整えて根子部落目指して下降するのみ。12:00AM竜門小屋を出発し、途中からスキーで東面の斜面をトラバースしてショートカット。この先清太岩山まではスキーが使えず歩きとなるが、その後はスキーの活躍する斜面となり順調に飛ばしてゆく。1000m付近になると雪は途切れ、スキーを担いでの歩きが続き、最後は1時間40分程の疲れる林道歩きの末に根子部落に到着する。4:00PM。
本来ならば主稜線から日暮沢まで通して滑降できれば、こんな登り返しをしないで済んだはずだが、根子川の本流筋はすっかり空いていて滝が露出しており、通過出来るかどうか未知数の為この様な山行の形態になってしまった。3本滑った中で最もすばらしい斜面は竜門山東面の赤倉沢と言える。広大なカール状の大斜面で明るくスケールが大きく、また雪の量が豊富でらしい滑降を満喫できる。又今回は途中で中断してしまったが、竜門山北面の入リトウヌシ沢の源頭の斜面も捨てがたく、再び左俣下部までの滑降を試みてみたい。全般的には各コース共適度な傾斜の斜面で、クレバス、落石、ブロック雪崩れ等も殆ど無く、あまり危険な個所も感じられず、滑降コースとしては実に最適な斜面だ。但し各コース共登り返しがある事と、この時期には日暮沢小までは除雪されていないので、片道2時間のアルバイトを覚悟する必要がある。
※ なお、朝日連邦の山スキー記録に関しては、竜門小屋の管理人である遠藤さんに伺ったところ、竜門山付近では主稜線付近を滑ったり歩いた人はいるが、ルンゼを滑降した人は記憶に無いとの事でした。