飯豊連峰 北股沢
 左俣



北股沢の左俣と右俣


【期日】    平成155月4(日)日〜5日(月) 
【メンバー】  坂野 (単独)

行動    5月4日  梅花皮山荘1000〜温見平1145〜石転び沢出合1500
        5月5日  石転び沢出合730~梅花皮小屋1015〜北股岳1100〜滑降開始1110〜石転び沢          出合1140〜温見平1315〜梅花皮山荘1500

【概要】

 北股沢とは石転び沢上部右俣のことで、北股岳に直接突き上げる急峻なルンゼから上部は急な雪壁が頂上まで連続している。夏の登山シーズンになると視界不良のときに登山者が迷い込み、落石、滑落などの事故もたまに発生している。今回の予定ルートは北股岳山頂から北股沢左俣を滑り降り、石転び沢を経て梅花皮沢の地竹原に至る標高差1350mのコースであるが、北股沢については滑降したという記録も見当たらず、私自身も予備知識など無く、初見でのトライという事になる。当初の予定では同行者と一緒に入門内沢の滑りをのんびりと楽しむつもりでいたが、既に入門内沢を3コース滑っており、昨年から新たなラインとしてこの北股沢を目標にしていたので、今回は思い切って決行してみる事にした。

 ここ数年の間に飯豊連峰を訪れるスキーヤーが増加し、特にテレマークスキーヤーの躍進が目立つようだが、そのほとんどが石転び沢、入門内沢に集中している。この広大でまた雪の豊富な飯豊連峰の沢筋は数多くにあるが、この時期は下部の雪渓が崩落し、または大きな滝が露出して途中から大きな沢の流れとなり、とてもスキーで最後まで滑降できる状況ではない。唯一の例外が人気の高いこの石転び沢と入門内沢である。

   

北股沢左俣の滑降ライン 高度差500m             北股沢の上部核心部

5月4日 () 晴れ

 昨年のこの時期は雪が特に少なく、飯豊梅花皮荘から飯豊温泉までの車道は除雪されていており、車で乗り入れが出来ていたが、今年は除雪が終了していたがゲートは閉まっており、温身平まで1時間30分のアルバイトを強いられる。温身平からスキーを履いて歩き出すが、所々雪が消えていて脱いだり履いたりの繰り返しでなかなかペースがはかどらない。平年と比べると雪の量は少ないが、それでももっと雪の少なかった昨年と比べるとブッシュが少なく、スキー板のひっかかりが少なくて歩き易い。地竹原のトラバース地点を過ぎると、雪渓で埋め尽くされた梅花皮沢に降り立つことが出来き、ようやくここからスキーを履いての快適な登高となる。

 まもなく石転び沢上部の北股沢がよく見えてきたので、早速滑降予定ラインを確認する。北股岳から門内岳に伸びる主稜線には毎年東面に巨大な雪庇が発達し、入門内沢への下降点は2箇所くらいに限られるが、北股沢へは北股岳直下の雪庇の切れ目から降りられそうである。頂上直下の急峻な雪壁は200m以上連続し、その下には大きな岩場が2箇所立ちふさがり、その先はさらに切れ落ちている様子が見える。しかも岩場の下には大きく開いたクレバスが横に広がっており、他にも大小のクレバスがはっきりと見える状況で、ちょっとスキーでの滑降ルートになりそうには無い。

 可能性のあるルートは頂上稜線右手の雪庇下の急峻なルンゼで、雪庇が崩壊してブロック雪崩の巣となっている雪壁である。稜線上の巨大な雪庇も既に3分の1ほどが崩落し、その下の雪壁にはブロック雪崩でえぐられた雪の溝が刻まれている。今年は4日間の晴天が続いた為か、斜面には水平な大小のクレバスが多く見られ、滑降ルートをより複雑なものにしており、少し傾斜の落ちた下部の斜面といえ油断がならない。

55() 晴れ

 昨日は石転び沢の出会いでツエルトを張り、同行者の柴田氏と一年ぶりの酒盛りとなり、調子づいてしたたか酒を飲んでしまった。昨夜は雪渓中のキャンプ地の為予想以上に冷え込み、夜中に目がさめてすっかり酔いも覚めてしまう。朝5時に目を覚ますと、もう既に梅花皮小屋から降りてきた登山者が傍を通りすぎて行く。

   

    雪の造形物                 まだ落ちて間もない岩雪崩

 荷物をキャンプ地にデポしてほぼ空身の状態で出発する。今日は朝からの晴天で気温がどんどん上昇し、石転び沢の両側からブロック雪崩や落石の音が鳴り響く。連休最後の日の為登山者は予想外に少なく、梅花皮小屋から降りてくるスキーヤー6人と登山者5人に出会った後、ここから上部にはもう誰もいない。実に静かで雄大な飯豊連峰を一人独占したような、満ち足りた気分を味わうことが出来た。同行の柴田氏は途中からスキーで下るので北股沢出会い付近で別れ、自分ひとりで急な上部斜面にシールを効かせながら梅花皮小屋を目指して登って行くが、傾斜がきつくなり途中でギブアップしてつぼ足になる。誰も居なくなった梅花皮小屋で小休止をした後、最後の力を振り絞って北股岳の山頂を目指す。

 北股岳山頂から見ると門内岳に続く主稜線の雪は例年より少なく、東面に張り出す巨大な雪庇もかなり崩壊が進んでいる様子で、そこらじゅうに大きく口を開けたクレバスが見られた。10分間ほど周りを偵察した結果、北股沢左俣への下降点は山頂の祠から北東方向に50mほど離れたところに在った。早速準備を整えて滑降を開始する。下降点付近でも2030cm程のクレバスがいたる所で開いており、スキーを載せる時も思わず慎重になる。張り出しの最も少ない先端に立ち下を覗いて下降ルートを確認しようとするが、急な角度できれ落ちているので直下の斜面は見えない。

  

     門内岳方面 下降点直下の壁          ジャンプ台のような斜面が200m以上連続する

 スタートして一旦雪庇の上で右にターンし、斜滑降で一気に先端の部分から斜面に飛び込む。思いっきり左の谷足に荷重をかけ、体のバランスを取りながら斜面の雪をエッジで切って行くと、厚さ56センチ程の重いザラメ状の雪が崩れてゆき、流れた雪はどんどん加速されて廻りの雪崩を誘発しながら落ちてゆく。200mほど下では幅5m以上の雪崩となって、岩場を滝のようになって豪快に落下していった。傾斜は4550°程に感じられるが、スキーのジャンプ台のスタート地点とはこんな感じなのか。50m程を斜滑降で降りて一旦止まり、周りを冷静なって確認する。しかしこの傾斜と不安定で重いザラメ状の雪の為スキーの押さえが利かず、今まで経験した事の無いような緊張感を感じた。

 北股岳山頂直下のこの斜面は真東に面しており、早朝から朝日を浴びて気温が上昇してすっかり雪が緩み、加えてこの4日間の晴天が続いて重いザラメ雪となったと思われる。キックターンをして左にトラバースしようとすると、今にも体のバランスを崩してしまいそうで実に不安定な状況だ。しかし、ここでの転倒は即滑落につながるので、失敗だけは絶対に許されない。連続ターンをあきらめ、微妙な横滑りと斜滑降を交え、左に雪の斜面を切って隣の雪庇下のルンゼを目指す。スキーで切られた雪の斜面は次々に表層が滑り出し、斜面はすべての面が磨かれたように新しい顔を現す。不安定な雪の斜面を慎重に下降しながら左にトラバースして、北股沢本流沿いの大きな雪庇下の急峻なルンゼに逃げ込む。ここでようやく厄介な急斜面の一枚バーンから開放された。

 この先は急なルンゼ状の雪壁が下まで連続するが、下部には障害となる岩場も無くスキーでの滑りにもう不安を感じない。こうなると思いきった滑りが可能になり、前傾姿勢を取りながら谷足にしっかりと荷重をかけ、ジャンプしながら連続したターンを描いてゆく。ザラメ雪は相変わらず流れてくるが、それと競争するように先行して斜面を切ってゆく。しかし斜面は狭くしかも所々横に走ったクレバスがあり、ノンストップで快適に滑り降りるという状態ではない。一旦止まると重いザラメ雪が後から雪崩て来る為、足が不安定になり少しも気が抜けない。

   

  崩落の進んだ大きな雪庇          絶え間なくザラメ雪が落ちてゆく

 ルンゼの中間部で一旦止まって下部のクレバスの状態を確認し、一息入れた後下降ルートを頭の中に入れて再びスタートする。しかし1箇所雪崩の通り道を横切る場所があるので、ゆっくりターンして斜滑降に入ったとたん左の谷足が流され、不覚にも転倒してしまった。重いザラメ雪は予想以上の力があり、そのまま頭を下にして雪の溝を滑り落ちていった。しかし流されながらも少しづつ体を横に戻し、スキーのエッジを雪の溝の両側に引っ掛けようと試み、ようやく3回目にエッジで捕らえて右の斜面に逃げることが出来た。この間およそ40m程と思われる。今までこのような転倒などが無かったので少し慌てたが、何とか立ち上がって冷静さを取り戻した。

 ここから先は傾斜も落ちてきて開放的な斜面が広がり、雪も比較的締まっていて快適な斜面が続く。エッジを効かせながら一気に石転び沢までショーターンで飛ばしてゆく。途中まで同行した柴田氏の姿は既に無く、殆ど人のいなくなった石転び沢の滑降を満喫した後、出合に残した荷物を回収して、同行者とそのまま地竹原まで滑り込んで今回のスキーを終了した。

 今回のコースは北股岳の山頂から滑る理想的なラインと思っていますが、クレバスも多く雪の状態もあまり良く無かったのであまり快適な滑降とは言えないようだ。しかし山スキーは天候と雪のコンデション次第と思われるので、天候、時期を選べればもっとすばらしい滑りが出来るとも思われる。
 


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