南蔵王、北屏風東壁

                                            北屏風山頂直下の斜面を下りる


【期日】       平成15年4月12日(日)
【メンバー】    坂野  荒井
【天候】       曇り (強風)
【コースタイム】  烏帽子スキー場リフト終点 9:50〜後烏帽子10:30〜ろうずめ平〜北尾根11:50〜 北屏風12:30 スタート13:15〜秋山沢〜東北大学観測所15:00

【概要】

 南蔵王の東面はすっぱりと切れ落ちていて、言葉のとうり屏風を立てかけたような壁が連なっており、仙台からでもその姿ははっきりと見える。そのまぶしい光を浴びた美しい白い斜面は、山に感心のある人なら思わず目を留める存在で、その容貌は蔵王連山の中でも特に際立った存在である。またちょっとばかりスキーに自身のある向きには、別の意味で気になる存在でもあり、何か挑戦的なラインにも見えるだろう。いったいどんな斜面で、どんな傾斜で、どんな雪の状態なのか。はたしてどの程度の難易度があるのか。そんな事を考えていると期待が膨らんできて、楽しくなってくるのは私だけなのでしょうか?

 もう25年も大昔の話になるが、一度屏風の東面を滑ってみようと考えた時期があり、漠然としたプランではあるが自分なりに立てたことがある。その当時はもちろん滑ったという人もなく、またトライした人も、トライしようとした人さえ私の周りには誰もいなかった。しかし当時の山屋というと登るほうと、酒飲み宴会が実態という側面があり、スキーを真剣にやろうとする人間は少数派で、いても登山目的の歩き主体のスキーという状況だった。そんな感じでスキーの滑降を楽しもうという認識はあまりなく、こんなところに注目する人もほとんどいない様子だった。そんな私もその後ヒマラヤ登山に入れ込んでしまい、結局一度もトライすることなく時間は過ぎ去り、その後結婚を機に東京に転勤してから山からは遠ざかる一方で、次第に忘れ去ってしまった。

 今やバックカントリースキー、スノーボード、など多様化した世界になり、かつてのように冬山は山屋の独占、専売特許とは言えなった様だ。山屋にスノーボーダー、ゲレンデスキーヤーなど、人間も用具も多種多様でありまたその価値観も異なるのだろう。しかし雪山を積極的に楽しもうと言う点ではいずれも共通しており、スタイル、経験、を問わず同じ愛好者であり仲間でも有る。しかしここ蔵王連邦はこうした滑り好きの人間にとって、特に恵まれたホームゲレンデを提供してくれるまたとない恵まれた環境でもある。北屏風、南屏風を始めとして、熊の東面、丸山沢、五色東面、振り子沢など、日帰りで手軽に楽しめる斜面が結構多く、そして変化に富んでいて興味深い。もっと多くの人が訪れても良い好ルートだと思うのだが。

 

        後烏帽子からろうずめ平への下降          ろうずめ平から見る北屏風東面先週に続き今回は2度目の東壁への試みである。先週は寒冷前線を伴った移動性低気圧が金華山沖で急速に発達し、天気予報は大外れで烏帽子スキー場は暴風が吹き荒れ、結局ゴンドラ終点のカモシカレストランで宴会となってしまった。今週もまたハートランド農場に断りを入れ、秋山沢下降ルート終点の東北大学観測所まで車を乗り入れて1台をデポ。烏帽子スキー場は今期特別営業で本日までゴンドラ、リフトが動いているので今シーズンは最後のチャンスという訳だ。しかし8:30運転開始予定のゴンドラがなかなか動かず、大幅に遅れて9:15なってようやくスタートし、リフトの終点にたどり着いたには9:50という状態。後烏帽子に向かってスキーを走らせるが予想以上に風が強く、頂上付近では小休止するような雰囲気もなく、そのままスキーをつけっぱなしにしてろうずめ平への下降に取り掛かる。頂上直下の斜面は傾斜がきつく、横滑りしながら慎重に降りて行く。ちょうどこんな傾斜が屏風の壁と同じくらいかなどと想像しながら行くと、何か不安よりも期待感のほうが強く、今日はどうしても滑ってやろうという気になってくる。

 ろうずめ目平から見る東壁はガスに覆われて頂上を見ることはできず、傾斜もきつく何か威圧的な様子でなかなかの迫力がある。ここの鞍部は当然風の通り道となり、油断していると突然の強風で体のバランスを失ってしまい、スキーを履いた状態では抵抗する力もなく、体が風に押し倒されてしまう。ろうずめ平から北屏風に続く北尾根に上がるためには急な雪壁が待っているが、このままスキーを履いたまま上り続け、ジグザグ登行を繰り返しながら高度を稼いでゆく。途中の突風と顔にたたきつけられる雪の粒に顔面を痛めつけられ、ようやく北尾根に登り詰めたのは予定の時間より1時間も遅れた11時50分になっていた。

 

ろうずめ平らから北尾根を目指す       北尾根から見る後烏帽子

 ようやく風を遮る樹氷の陰で一本を取ると、出発してから今日になって初めて体を休めることができ、落ち着いて腹ごしらえが出来た。やがて天候も少しづつ回復してきて、後烏帽子と北屏風の山頂が姿を現し、稜線を吹き抜ける風も弱まって落ち着いた様子になってきた。北屏風までの稜線は左に所々雪庇が大きく張り出し、東壁上部の斜面は視界が遮られてみることが出来ず、全体の様子を判断する事はまだ出来ない。稜線は雪庇が連続していてなかなか下降ポイントが見つからず、そのまま頂上にたどり着いてしまったが、そこからは唯一雪庇の張り出しの無い雪のリッジが張り出し、ここが下の秋山沢への滑降ルートを示している。頂上直下は50mほどの急斜面が続き、その先はテラス状になった略奪点があってその先は切れ落ちて見えない。しかし考えられる下降ルートは他に見当たらず、ここが唯一のポイントに思えるのでスキーのシールをはずし、滑降の準備を整える。

 最初の斜面はリッジ状になって幅が狭く、傾斜も急で連続ターンを試みるのは躊躇してしまう。昨日降った雨の為雪はぐずぐずして重く、ターンをする雪が崩れ落ちてスキーが廻しづらいようなので、ここは仕方なく横滑りを交えながら降りてゆく。雪のテラス状になった所まで降りてその下を見ると、リッジの右と左の斜面がよく見えて下降ルートの全体が確認できる。ここから先は快適そうな雪の斜面が下部の秋山沢へと連続していて、一気に滑り降りることが出来そうだ。

 最初に斜滑降で20mほど右に降りて、キックターンで左に返して大きな露岩の下に出る。斜面を切ってゆくと5cmほどの雪の表層が流れ出し、そのまま下部の秋山沢まで落ちてゆく。ここから先はブッシュも少なく、快適なルンゼ状の広い斜面が広がり、左の広い急斜面に飛び込むようにして連続ターンを繰り返し、スピードをコントロールしながら滑り降りる。以外にも雪が良く締まっていたのでトップの引っかかりもなく、スキーを廻すには快適な斜面が続き、誰もいない斜面に好きなだけのシュプールを残して降りてゆく。

  

北屏風山頂からの下降点付近                岩峰下の斜面にトラバース

 下に降りるにつれ傾斜は緩くなり、雪の質も湿って重くスキーのトップが引っかかってターンがしにくくなり、少し足に疲れを感じてくる。秋山沢の源頭に降りて一服とする。ザックから缶ビールを取り出して乾いたのどを潤し、何かとても満足したような気分に浸りながら降りてきた斜面を振り返る。実際に滑ってみると予想していたより快適で、滑りも十分に楽しめる面白いコースなので意外な感じがした。もちろん天候、雪の状態によって楽しさが違い、難易度もかなり変わってくると思うが、今日は実に恵まれた1日で特に危険を感じる箇所もなく、充分に楽しめる好ルートに思われる。

 こんな気分に浸っていると突然人の声が聞こえ、北屏風手前の北尾根の稜線からスキーで降りてくる人影が見える。見るとスキーヤー3人とスノーボーダー1人のパーテーで、休んでいる我われの前にあっという間に滑り込んできた。話を聞いてみると烏帽子スキー場に勤めているスキーヤーで、先週にもこの辺を滑っているらしく、今日は天候が良くないので北屏風手前から下降したらしい。さすがに若い連中はスキー用具も最先端を行っており、幅広タイプのファットスキー板で、こんな悪雪でも快適にターンしてゆく。

 我々の後を追って烏帽子スキー場から上がって来たのか、それとも刈田岳方面から来たのか定かではないが、全員がスノーシュウーを持ち、ザックにはスノーシャベルが括り付けられて、いかにも今風の若者という雰囲気であった。ここから先は秋山沢左岸の台地状に続く登山道沿いにスキーを走らせ、密度の濃い樹林帯に苦労しながら滑って行くと、えん堤を建設した時の作業道路にたどり着いた。まだ雪が残っていたので、スキーはつけっぱなしで滑り続け、ようやく終点の東北大学の観測所にたどり着くことが出来た。

 今度の試みは一応の目的を果たしたもいえるが、なにか不満が残ることも少しある。最も理想的なラインを求めるとすれば、頂上からまっすぐ降りるコースがあるはずで、しかも連続したターンを刻むことが出来ればより満足度は高いと思われる。今後の宿題を残し、今季では最後と思われる蔵王の山スキーを締めくくった。

 

     後烏帽子への登り             ろうずめ平らから東壁を見る 

 

北尾根の雪庇                     下降点直下の尾根上

 

快適な斜面を楽しむ                           壁を見ながら


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