飯豊の沢は昨年の10月に三国小屋に突き上げるタカツコ沢を登ったが、快適では有ったが日帰りでも可能な短い沢で、何となく登った気がしなくて物足りなかった。
今回は飯豊 朝日連峰の沢の中から選んだが、最終的に二王子岳に突き上げる樽の木沢の堂沢と、地神山に突き上げる頼母木川の上の小俣沢に絞られ、最終的には珍しく3日間の日程が取れたので、自分としては特に上の小俣沢を希望した。
前夜に胎内ヒュッテ駐車場に到着し、何時もの様に前夜の入山祝いで盛り上がっていると、後からやって来た二人パーティーが外で宴会を始めた。何となく沢屋の雰囲気がして翌朝挨拶をすると、予感が的中して知人の佐藤さんと鈴木さん(フィエスタの谷)と判明する。
こうなるとは沢屋の世界もひどく狭い業界で、お互いに上の小俣沢を目指す予定だったので、急遽即混成パーティーが出来上がる。世の中が狭いと言うよりは飯豊・朝日の沢を目指す人が少ない訳で、首都圏方面の沢専のクラブは別だが、東北のメンバーだったらたいがい面子の想像がつくと言う情けない状況でもある。
この際ついでに4本のロープを2本に減らし、余計なスリング・ハーケンを登山口にデポして頼母木川の右岸を元気に歩き出した。
【天候】 9月20日 晴れ 21日 晴れ 22日 曇り
【行程】
20日 足の松尾根登山口6:45〜堰堤の泳ぎ7:05〜小俣沢出合1:18〜逆くの字の滝12:55〜テン場14:45
21日 テン場出発6:45〜7:07下の小俣沢7:07〜大チョックストーンの滝9:00〜上の小俣沢出合25mの大滝〜高巻き終了14:20〜テン場15:35
22日 テン場出発6:43〜15mのCS滝〜三俣8:21〜登山道10:00〜頼母木小屋10:25 11:15〜足の松尾根登山口15:30
【メンバー】
佐藤 鈴木 (フイエスタの谷) 荒井 坂野
【概要】
9月20日
右岸の車道跡を進んで行くと突然現れたのは予想外の大きな堰堤。深いゴルジュで左右の巻き道は無く、堰堤の右岸に取り付けられたステップが行く手を示しているが、取り付くには朝からいきなりの辛い泳ぎが待っていた。
「こんな話は聞いていねーよ!」と全員ブーイングの嵐だが、ここでは最も頼りになりそうな佐藤さんにすがり、ザックは引き上げてもらい、後続はロープに引かれてステップに辿りつく。その先は河原状となって和やかな雰囲気だったが、ゴルジュ内を辿って行くと間もなく険しい雰囲気になってくる。
今日の水量は少な目とは言いながらその雰囲気は朝日連峰の沢とも異なり、一段とスケールアップした様な雰囲気には身が引き締まる。飯豊の沢の初日は暗いゴルジュ帯の通過は試練で、日の当たらない井戸の底のよ様な水線突破は寒くて辛い。時々胸まで浸かりながらのヘツリを繰り返して2〜3mの滝を越えて行く。
所々お助け紐に助けられながら進んで行くとゴルジュが狭まり、2段3mの屈曲した滝には手が出なくて左岸から高巻きに取り掛かる。上部は平坦なブナ林がでてきたのは意外で、15分もすると懸垂無しで容易に本流に戻る事が出来た。
一旦河原状になるがすぐゴルジュ帯に突入し、やがて小俣沢出合いの滝が登場する。ここでロープを出して佐藤さんが5m滝左壁のガリーから取り付き、しっかりしたスタンスを拾って右から滝の落ち口に立ち、トップが入れ替わってロープを引いて高巻きに取り掛かる。高巻きでは暖かい日が差し込んで暑過ぎず寒すぎず、厄介なメジロに追い立てられることの無い遡行は快適で、この先雪渓が出てこなければ飯豊連峰沢登りのベストシーズンにも思える。
その先のゴルジュでも2m〜8mの滝が出てくるが、殆どはノーザイルで登れる快適な滝が続き、やがて天から水を放水している様な20m2段の逆くの字の滝に差し掛かる。後で記録を見ると滝の左岸に巻き道が付いている様だったが、今回は右岸から荒井さんがロープを伸ばして弱点を突破する。あとは容易な草付きから潅木帯に入り滝の落ち口を越える。
その後ゴルジュ帯を抜けると6m2条の滝が出てきて右からロープを伸ばして快適に越え、3mの滝を越えた辺りに適当なテン場があり、少し早めだが今日の宴会場と決定する。岩混じりで余り平らでは無かったが、星空を仰ぎながらの焚き火ですっかり盛り上がり、翌日の酒まで手を付けてしまったのも仕方あるまい。、
9月22日
翌朝はやや開けた狭い渓が続くが水の冷たさはたまらない。極力濡れずに通過したい所だが時々腰まで浸かり、これも飯豊連峰の試練と諦め、体が冷えない様に休み無しでどんどん先を行く。左から2本の沢が入ったゴーロ帯を行くと、両岸が狭まった20m程ある滝の下の小俣沢出合いとなる。
この先の本流のゴーロ帯は次第に高度を上げて行き、屈曲したゴルジュ帯の中を、6m×8m×8mの連続する滝を越えて行く。ザックの吊り上げも混じえ、6mの滝は左岸からロープを伸ばして通過し、後続はフィックスを辿って滝の落ち口に立つ。突破屋さんは佐藤さん荒井さんが交代で務め、写真班と回収専門は自分の担当と決める。しかし、肝心な画像を半分程誤って削除してしまい、余り役に立たなかったのはアホだった。
この先は巨岩が沢を塞いだような光景となり、ショルダー・お助け紐を使いながら越えて行く。すると足の松尾根からも良く見える大きなチョックストーン滝が行く手を阻まれる。左岸のバンドに佐藤さんが取りついたが行き詰まり、いったん戻って下からハーケン1枚で突破して行く。ところが3番目の鈴木さんがスリップしてビレーポイントのハーケンが抜け、取り付き付近で2m程落ちたが幸い大事には至らずに済んだ。
続く8mの滝を右岸のバンド沿いにロープを伸ばし、フリクションで水流沿いに上ってクリアーする。この先は意外と狭い平凡なゴーロ歩きだが、その先は急に沢が大きく開けてくると左は見事な岩壁帯となり、スケール感に圧倒される様な光景でさすが飯豊連峰と納得する。大きく開けた明るいゴーロ帯を少し登ると、左にはまるで要塞のように立ちはだかる25mのCS滝が現れ、上の小俣沢への最後の関門のように思えた。
正面突破の見込みは無いのでそのまま右にゴーロ帯を100m登り、右岸の傾斜の落ちた草付き帯にロープを伸ばして潅木帯に入って行く。2P登った後小尾根に出て1P反対側に降りて行き、35mの懸垂で上の小俣沢25mの滝上部に降り立った。荒井さんの適切なルーハンでコンパクトな高巻きとなったが、4人パーティーではやはり全体的に時間がかり既にPM2:20を過ぎていた。
ここから100m程下流に戻った大滝の落ち口辺りにはテン場が有りそうだったが、明日の行動を考えると少しでも高度を稼ぎたい事情もあり、小休止の後は右から8mヒョングリの滝にロープを伸ばす。さらにロープを付けて7mの滝も楽に左の草付きから越えると、渓は大きく開けて地神山・頼母木山方面の稜線が近づいてくる。
平らな草地を今日のテン場と決め、草を刈って敷き詰めるとそこは快適ベットの出来上がりで、昨日よりもまして眺望の良い素晴らしい宴会場となった。残り少ない酒は計量配給制との声もあったが、2日めは特に疲れたのかすぐに酔いが廻ってしまい、ほど良い加減でぐっすり寝込んでしまった。
9月22日
朝目を覚ますと予想に反して曇り空で、出発する頃には雨がぱらついてくる今一つの天気だった。しかし、この先の15m滝を越えれば核心部は終了し、後は小滝を越えて登山道目指すのみなので気持ちは高ぶる。
15mの滝は左岸の草付きから高巻くと楽に滝の落ち口に達し、後はゴボウ登りの様にして4人が終結すると緊張感が解ける。その後は源頭の雰囲気となって小滝が続き、所々お助け紐を出しながら高度を上げて行く。
次第に雨模様となって主稜線方面にはすっかりガスが掛かっているが、連続行動の為か体の冷えは感じずそのまま登り、最後の三俣の草付き帯で小休止を取った後は、最後の力で草付き帯から登山道を目指す。
そしてフィナーレはまったく藪漕ぎなして登山道に飛び出し、4人でがっちり握手をして完登を祝した。極端に悪いゴルジュの泳ぎや滝、腕力便りの疲れる高巻き、そしてややこしい雪渓も無くラッキーだった。我々にはとっては身分相応の楽しい沢という点で大正解であった。後は頼母木小屋で小休止の後、ノンビリ下って有意義な3日間は終了した。
今回はまったくの偶然で4人パーティの山行となったが、前半の2日間は素晴らしい好天にも恵まれ、いまだに馬力の衰えない2人にがんばってもらい、4級上とも言われる飯豊連峰の沢だったが実に快適な遡行だった。やはり4人となると明るく賑やかで楽しく、何時もはただガツガツ登るだけの山行も今後はいい加減に卒業しようと思った。
しかし、なんといっても女性の鈴木さんのがんばりは素晴らしく、殆ど休憩もせず付いて来てくれるのは驚きました。自分の目の前で一度はスリップしたものの、まったくめげない所は余程の根性の持ち主と見ました。
今回もは朝日連峰の五貫沢に続くラッキーな山行で、これといったトラブルも無く、この様な楽しい山行ができた事を嬉しく思います。まあ、今年は良い所取りに1年という事でしょう。
やはり沢は辞められないね〜。
※鈴木さん 荒井さんからは画像を提供してもらいました。
2晩連続の快適なビバークサイト
15mの滝は右からロープを45m伸ばす
15mの滝はフィックスロープでスムーズに通過
核心部を通過すると2〜3mの小滝が連続する
殆どの滝は快適に通過する
詰めは一切ヤブ漕ぎなして登山道に飛び出す
本当にお疲れ様でした
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