2004年 沢登りの記録

 2004年9月19(日)〜20日(月)
 朝日連峰 見附川 入りトウヌシ沢本谷  スライドショー


【コースタイム】

9月19日(日)

日暮沢小屋6:40〜日暮沢乗越し8:00〜見附川9:40〜高松沢出合の滝上〜トウヌシ沢出合手前のBP16:40
9月20日(月)
BP6:00〜トウヌシ沢出合7:00〜入りトウヌシ沢本谷9:00〜4段40mの滝11:15〜稜線13:00〜日暮沢小屋16:40

【メンバー】  荒井 坂野

 
毎年の事だが夏場の山行に数はめっきり少なくなってしまい、今年の沢登りは二口の大行沢、朝日連峰の大石沢の2本のみ。この暑い夏なら何が何でも沢登りを満喫したい所だが、雑用に追われてしまいそのタイミングはなかなかやって来ない。ようやくの相方との日取りがあったのは9月19〜20日の2日間。当初は出合川上部の中俣沢、西俣沢などと欲張ったプランを考えたものの、我々の技術、体力、スピードでは無理な事はすぐに解った。しかも悪天候の時のエスケープが難しいとあっては、運を天に任せた一発勝負となるのが目に見えている。

 そこで選んだのが見附川上流部の入りトウヌシ本谷。見附川は根子部落を過ぎたあたりから右に入り、長い本流のゴーロ帯から入りトウヌシ沢本谷詰めて竜門山に達するには2泊3日を要する。今回のコースは下部の本流をショートカットし、日暮沢小屋から日暮沢経由で尾根を越え、反対側の沢を下降して見附川に降り立ち、1ビバークで本流筋の入りトウヌシ沢を詰めて稜線に立ち、その日のうちに日暮沢小屋まで戻るという計画である。もし上流部に入り込んでから天候が急変しても、清太岩山方面に突き上げる枝沢に逃げる事も可能。

9月19日(日) 雨のち曇り
 前夜に日暮沢小屋に到着して見ると既に25台くらいの車が狭い林道沿いに並んでいたが、狭い駐車場の角にテントを張って早速の入山祝を行った。翌朝に気合を入れてアプローチコースの日暮沢の刈り払いされた道を登り出すと雨が降ってきて、直後に急などしゃ降りとなって我々を歓迎してくれた。鞍部を越して見附川に降り立った頃には雨も小康状態となったものの、見附川本流はすっかり増水して勢いを増しており、唖然としてしばらくぼんやりと様子を見る。
 
 一旦戻る事も考えたが、雨は小康状態を保ってくれそうなので予定どうり前進し、今日は行ける所まで行ってみる事にする。記録では見附川へは懸垂下降とされているが、上流へ50mほど行った藪の斜面を下降して本流に降り立つ。沢は約30cmほど増水して勢いが強いので、右岸沿いにヘツリを続けるが思いのほか時間が掛かる。そのまま高松沢出合付近までは滝が無く、ヘツリと渡渉の繰り返しでゴーロ帯を終了する。途中で尺を越す岩魚を見かけて竿を振っては見たものの、増水した沢では全く魚信がとれずさっさと諦めて先を目指した。

歩いていると渡渉にも慣れてきて、次第にペースが上がってきてどんどん先に進む。小休止を取ってこの先の予定を考えたが、高松沢を過ぎてくるとそこからの退却は困難になるが、上部の右岸に清太岩に突き上げる枝沢があり、もしもの場合のエスケープルートとして考え、天候も安定して来たのでそのまま前進する事にする。

 高松沢出合手前間で来ると2段10mの滝が現れ、この先から本格的な沢の様相となり厳しくなる。この滝は深い釜を持った滝で水量も多く直登は無理なので、右から大きく高巻いて一気に高松沢一段目の滝の上まで大トラバースを行う。草付きの斜面は傾斜があるのでザイルをつけ、上部の顕著なバンドから潅木帯に入り、高松沢1段目の滝の上に見当をつけて下降して行く。結果は見事に当たって滝の上に降り立ち、今度は左側の尾根を越し、トラバースした後に本流の魚止の滝を越したあたりの沢床に降り立つ。

 しばらくゴーロ帯を行くと谷は開け、ビバークには最適と思われるロケーションの砂地の河原が出てくる。見ると昨日あたりにビバークしたものと思われる跡があり、枯れ木やが燃やされ無いまま放置されていた。その上部は草付きの台地になっていて踏跡が続いており、どうやら昨日の雨で増水し、先行パーティーは上の台地に避難した模様であった。雨さえ降らなければ派手に焚き火を炊いて最高の大宴会が約束されているが、明日のことを考えると誘惑を振り切り、ブッシュ帯でのビバーク覚悟の更なる前進しか無かった。ああもったいない。

 既に16:00を過ぎていて焦りを感じてくるが、今度は深い釜を持った2段5mの滝に行く手を阻まれ、比較的傾斜の落ちてきた右岸を高巻潅木帯をしばらくトラバースして行くと、先行パーティのものと思われる踏跡に導かれて再び沢床に降り立つ。しかし先はゴルジュを持った2段10mの滝が出てきてまた右岸の草付きに追いやらせてしまう。今日中にどうしても二俣に到達しておきたかったが、この様子ではブッシュの中で時間切れになるのが明らかなので、途中で適当な場所を見つけ次第ビバークとする。60m程登った所にちょうど沢水が流れており、比較的傾斜の緩い斜面を今日のBPとして早速準備に取り掛かる。

9月20日(月)
 昨夜は意外と居心地の良い場所だった為に、、心配された雨も降らず予想外に快適な一夜で、翌朝は思わず寝坊してしまいそうな雰囲気だった。素早く身支度を整え6:00に出発。高巻から1日が始まるというのも今まであまり無かったが、やはり朝日の沢は決して楽には登らせてくれない所と実感する。途中からトウヌシ沢に掛かる雪渓が見えてくるが、2年前の同時期の記録と比べるとはるかに少なく、今年の猛暑の影響でルートが変わっており、この先上部は全ての滝が露出していて厄介な感じがした。しばらくして沢に降りると今度はまたゴルジュの中の5mの滝が現れも、又かとがっかりしても再び右岸の草付きを登って潅木帯に入る。少し高度を上げて行くと視界が開け、二俣全体が見渡せて現在位置が確認できた。

 二俣に下りる下降点を探してあちこち探していると、昨日のパーティーのものと思われるシュリンゲがあり、そこからザイル2本45mで懸垂下降し、何とか二俣手前のポイントに立つ事が出来た。ここから目指す入りトウヌシ沢本谷に入ると、S字状沢の両岸は狭くかぶったゴルジュ帯になり、滝が連続してその上2段8mの滝で行き詰まる。1段目は問題ないが、2段目は狭い滝の落ち口の水の勢いが強く突破は不可能に思える。

ルートは右岸の急なルンゼ状の草付きにとってハーケンを打ってザイルを伸ばすが、草付きは見た目以上に悪く浮石も多くてかなり緊張する。後続の私はここでユマールを取り出し、もう節操無くぐいぐいど登って楽に突破させてもらう。その先の草付きのトラバースも悪いが、相方はスパイク地下足袋に今時珍しいワラジでどんどん先を行く。地下足袋、ワラジの力は今でも健在と改めて感心してしまった。

 20mの懸垂で沢に戻ると又ゴルジュの中の5m滝が有り、左から巻いて入トウヌシ沢右俣下の河原に降り立つ。右俣は本流と比べて水量がかなり少なく、比較的楽に頂上稜線まで行けそうに見える。4段20mの滝を左のガリーから快適に越して先を行くと、さらに滝は連続し7mの滝に行き詰まり、右から高巻の後20mの懸垂で沢に戻る。ここでようやく谷が開けて河原状になり、やっと緊張感から開放される。二俣から予想外に時間をかけてしまったが、どうやらこの辺で核心部が終了した模様で上部は開けて主稜線が良く見えるようになって来た。ここまで来る安全地帯に入りとやっと緊張感がほぐれ、何か再び疲れ果てた体に力がみなぎってくる様にも思えた。

 その先も3〜7m程の滝が次々に連続し、疲れてはいるが問題なく快適に登れ快調に高度を上げてゆく。今日の稜線までの行動時間は当初9時間と考えていたが、ここまで来れば後は体力勝負のみで余裕を持って日暮沢小屋に到着できそうな見通しが立ってきた。しかしながら何時になくザックが重く、疲れがたまってきて脚がもう言う事を聞いてくれない。先行する荒井君との距離は益々開くばかりでペースが全く上がらない。

 右から入る枝沢を越してさらに左から2本の枝沢を越し、7mの滝を越して先に明るく開けた4段40mの滝が掛かっている。右からノーザルでガレた浮石だらけの草付きを登ったが、4段目15mの滝から足元が崩れそうになり高度感もあるのでザイルを出して乗り越す。ここまで来るともうその先には開けた平凡なゴーロ帯が延々と続き、稜線までは殆ど滝らしい姿は見られない様子。後は気力のみで重い体を引きずってひたすら上を目指すのみで、ようやくここまでやって来たと言う実感が感じられた。

 最後の草付きを上り詰めると突然登山道に飛び出した。すると急に雨が降ってきて稜線の風に吹かれ、体が冷やされ急に疲れを感じてしまう。休まずそのまま稜線を歩くとおよそ5分で竜門小屋に到着した。今日は主稜線着が15:00頃と予想していたので2時間ほど早い事になり、覚悟していた夜間行動だけは避けられて安心した。初日には沢が増水して諦めムードだったものの、水量もさほどでもなく天候も後半には安定し、今回は運良く予定どうりのトレースを出来て大変に嬉しい。

 大休止の後竜門小屋を出発し、ズルズル滑るフェルトソール靴に難儀しながらようやく日暮沢小屋に帰着。それにしてもスパイク地下足袋を履いた相方とのスピードの格差はもう歴然。今後はスパイク地下足袋にフェルトワラジをまじめに検討しよう。




増水した見附川の本流

高松沢出合手前の2段10m滝。右から大きく巻いて高松沢1段目の滝の上へ

右岸を45mの懸垂下降で二俣に降り立つ

トウヌシ沢に残る僅かな雪渓

二俣本谷の8m左岸の滝からすぐ高巻が始まる

4段20mの滝は左のガリーを登る

7mの滝は右から最後の高巻

上部は花崗岩の開けた明るい沢

上流部は明るく快適な滝が連続する

4段40mの滝。上部の滝は殆ど快適に登れる


最後は体力勝負のみ