朝日連峰の北端に位置する赤見堂岳・石見堂岳は、大朝日岳を登った人でもご存知無い方もいると思いますが、この山域は最近山スキーヤー・テレマーカーに特に注目されている山です。この赤見堂・石見堂に至る登山道は無く、このピークに立つには雪のある時期に山スキーを駆使しするか、あるいは沢慣れしたパーティーが沢を登りつめて山頂に立ち、下降路に適した別の沢を下るほか方法は無いだろう。
標高はたかだか赤見堂岳で1445.5mにしか過ぎず、あまりに注目されるような山ではなく、今までは訪れる人も少ない不遇な存在の山だった。しかし、山スキーを趣味とする者にとっては実に興味深いエリアで、日帰りコースで登下降できる魅力的な尾根がある。このコースは朝日連峰のイメージとは異なり、尾根の取り付き点からの傾斜は比較的緩く、森林限界を超えると北に月山が真正面に聳え、南側には以東岳・障子岳から竜門山・大朝日岳に連ねる主脈が目に飛込んでくる。
この素晴らしいロケーションが何よりの魅力だが、そこに付け加え赤見堂岳などは中々人を寄せ付けない雰囲気が有り、東北の山でも少なくなった未知の要素を持った山ともいえる。昨年の「山と渓谷」に西川山岳会パーティーによる3月のスキー縦走記録が発表されたが、その後訪れる山スキーヤー・テレマーカーが目立ち始め、自分でもいい機会を伺っていたが、ジャストタイミングでこのコースを訪れた。。
【1月21日】 桧原5;46〜石見堂岳9:39 9:55〜赤見堂岳10:55 11:23〜石見堂岳12:26 北尾根下降〜980mピークトラバース14:20〜国道112号線(石跳川出合付近)15:10 |
前日に下降予定地点の国道112号線の大越川と石跳川の合流地点に1台車をデポし、出発点の大井沢桧原の神社の祠前に車を止めて何時ものように宴会へ。今回は何時に無くセーブして12:00PMにはシュラフに入る。
早朝に準備を整え出発して取り付き点へ向かうが、相方は昨年の3月にこの尾根から赤見堂岳を日帰りしており、安心して傾斜の緩い沢筋にコースを取って登りだす。昨年1月の積雪と比べるとおよそ半分以下だが、ジグを切って斜面を登るくらいは不自由なく、シールが良く効いて出だしも快調だった。まもなくすると以外にも最近付けた様な赤布が出てきた。トレースしたのは先週かまたは好天の続いた正月頃なのか、この時期にこのコースを目指す人も他にいるもんだと感心し、ウサギの銀座通りコースに導かれて杉林を通過して行く。
やがて尾根が広がってくると視界が広がり、眼下には月山湖を望んで高度感を感じる快適なコースとなる。靴の下位の雪は軽くてラッセルも苦にならず、頭上には青い空が一面に広がって疲れも感じずどんどん進んで行く。風は無く次第に汗ばんできて思わずジャケットを脱ぎ、アンダーウエアー1枚でちょうど良い位だった。
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桧原を元気に出発 |
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北下部は細い尾根だがやがて・・・。 |
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パウダーでもシールは良く効く |
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やがて正面に石見堂岳の白いドームが近づいてくると、左手には大朝日岳まで望める朝日連峰の主脈が姿を現し、奥にはやがて美しいまばゆい赤見堂が待ち構える。東面の斜面には最近雪崩れた様な大きな破断面が見られ、厳冬期の厳しさを物語っている様にも思えた。それにしても正月の続いた好天を思わせるような日で、これが本当に厳冬期の朝日連峰なのかと思えるような穏やかさだ。この好機を見逃すことなく機動力を発揮できるのが山スキーで、このペースで行けば石見堂を越えて赤見堂までたどり着くことは十分可能に思えた。
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石見堂岳に到着してみると実にのっぺりした広い山頂で、赤見堂岳から南は鍋森、北側に湯殿山と月山、南側には朝日連峰の全貌を望む事ができる大展望台だった。ここで缶ビールでも取り出してグビグビとやりたいところだが、こんなときに限って缶ビールはおろか梅酒もおきっぱなしにしていまい大後悔。
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やがて美しい赤見堂岳の東面が姿を現す |
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南側は以東岳から大朝日岳に続く主稜線の全貌 |
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本当は何時までものんびりまどろんでいたい所だが、まだこの先も長いのでのんびりも出来ず、簡単に腹ごしらえをして目標の赤見堂岳を目指して出発する。石見堂からは右の沢筋を下って標高をいったん50mほど下げ、無木立ちの尾根に戻って緩い斜面を登り返す。尾根は比較的広くて面倒なシュカブラも無く、適度にしまった斜面は登り易くてどんどんトップは先を行く。
この先の斜面は広くて程よい傾斜があり、月山、朝日連峰、そして遠くには鳥海山の姿を現し、疲れなども感じずにどんどん前進するのみ。この時期としては信じられない位の快晴で、目指す赤見堂岳はどんどん近づいてくる。当初は果たしてたどり着けることが出来るか解らなかったが、赤見堂岳は優しくそして静かに我々を出迎えてくれた。この赤見堂岳は比較的国道112号に隣接しているにも関わらず、夏は登山道が無くて登れるルートは無く、冬はアプローチが良いのにも関わらず雪が深くて尾根の距離が長く、多くの登山者、スキーヤーを拒んできた。
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石見堂岳から月山・湯殿山 |
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石見堂岳から赤見堂方面 |
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鍋森方面に続く稜線 |
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今シーズンはまったく手付かずの赤見堂岳 |
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以東岳〜障子岳〜大朝日岳方面 |
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シュカブラの発達も無く快適な斜面が続く |
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山スキーヤーを大歓迎する赤見堂岳 |
赤見堂岳に到着したのは予想時間より1時間ほど早い11:00頃だった。山頂から姿を現したのは東側の出合側流域の山々で、普段は中々お目にかかれない以東岳北面の光景。昨年の5月に歩いた茶畑から以東岳に至る稜線は長く、朝日連峰の南の盟主と言うべき以東岳の姿は立派に思えた。アプローチの困難な厳冬期の朝日連峰にあって、殆ど人を寄せ付けない以東岳は朝日連峰の影の主役とも言える存在だ。
いつかは厳冬期の以東岳山頂に立ってみたいと思っているが、実現となると決して容易ではない。山仲間で昔の正月に竜門小屋から1日で以東岳を往復した人がいる。しかし、こんな事はよほど好天のタイミングが合わないと難しく、下手をすると戻りの竜門小屋で下山のチャンスを失い、2〜3日缶詰状態をなる可能性もあって侮れない。
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石見堂岳からノンストップで山頂を目指す |
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赤見堂岳から東方向の高安山 |
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しばらくのんびりした後山頂でシールを外して準備を整え、石見堂岳を目掛けて明瞭な尾根を滑り出す。このコースの斜面は程よくフラットで雪が締まり、軽くパウダーを蹴散らしながら加速して飛ばしてゆく。このコースはシュカブラはまったく出てこないので、安心して滑る事のできる贅沢なゲレンデの様な物。ノントラックの斜面を独り占めにする快感はやはり変えがたい魅力がある。。
滑り降りた石見堂岳手前の鞍部まではあっという間で、シールを再び貼って石見堂岳の山頂へ戻り返し、今度は月山を正面に見ながら未知の石見堂岳の北尾根を下降して行く。このコースは相方も初めてのコースで、日頃から地図を読み込んで見つけたお勧めのコースだった。この尾根は昨年の4月頃に下ったパーティーがいるが、この時期はどんな様子なのか興味深々のコースだった。
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適度に雪のしまった斜面からスタートする。 |
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快適斜面を飛ばしてゆく |
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赤見堂岳はあっという間に遠ざかって行く |
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石見堂岳から月山を目指して北尾根を下降する |
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出だしは広い斜面なのでしっかり地図で方向を確認し、雄大な月山・湯殿山をほぼ正面に見ながら緩い斜面を降りて行く。尾根は広く割りにあまり見通しは良くないが、まもなくブナ林の快適斜面が次々と現れ、軽いパウダー斜面をご機嫌に満喫しながら下りて行く。ただ4ヶ所くらいの登り返しがあるが、シールは無くても歩ける斜面なのでそのまま下りて行く。
この尾根は北に伸びる尾根の為に雪質は良く安定しており、何処までもパウダーが連続する予想以上に快適なコースだった。下降するに従って正面から月山がどんどん接近し、滑り降りるのがもったいない様な見事なロケーション。しかも雪は軽く板は良く走り、広いブナの疎林を自由自在のツリーランが続く。
コース後半の980mピーク手前の鞍部で再びシールを貼り、右側から急峻な雪壁をトラバースして巻いて行く。その後は尾根の斜面をまっすぐ快適に下降し、868mピーク付近から右にコースを取って滑り込み、ブナ林の尾根を下って鞍部にたどり着く。この先はすこし狭い尾根を登り返してから左の急な沢に入り込み、深いパウダー斜面を下って112号国道の橋の下を潜り、20m程登り返してようやく終点に辿りついた。
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広い斜面の北尾根は変化にとんだパウダー天国 |
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北面の尾根はパウダーでスキーも良く走る |
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どんどん月山・湯殿山が接近してくる |
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広い疎林は理想的なパウダーのツリーラン |
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雄大な月山の姿に気分は最高に良し |
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中間部から北尾根を振り返る |
※ この北尾根は地形がやや複雑で登り返しもあって少し手強く、視界の利かない時の行動は慎重を期したい。地図・コンパスの持参は言うまでも無く、多少の登り返しなど苦にしない方はお勧めのコースです。
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