飯豊連峰 頼母木山(1720m) 2009.01




枯松峰を下降する頃になって初めて視界が広がる




 山 域  飯豊連峰   頼母木山  (1750.0m) 
 山行日時  2009年年1月2日(金)〜4日(日)
 天 候  1月2日 風雪   3日 風雪  4日 風雪   気温 三匹穴 -5℃
 メンバー  荒井 千田 坂野 
 行 程 1月2日 長者原 奥川入5:40〜尾根取り付き6:30〜枝尾根乗り越し8:06〜西俣ノ峰10:42〜枯松峰〜三匹穴下(1410m) 
1月3日 三匹穴下9:54〜頼母木山直下(1700m付近)11:12 11:15〜三匹穴11:45
1月4日 三匹穴下7:51〜枯松峰8:14〜西俣ノ峰10:08〜奥川入12.10

 今年の正月は鳥海山にするか又は飯豊連峰にするか、散々迷った挙句の結論は飯豊連峰だった。鳥海山の湯の台コースは滝ノ小屋の存在が大きく、スキーを滑って賑やかな新年会という煩悩に取り付かれる。東面のフカフカパウダーで少し遊び、あわよくば山頂へ等と欲望は広がってくる。

 しかしである、週間予報支援図を見るとこれが前途不安の雰囲気で、どう考えてみても12月30日〜1月1日にかけて天候は悪化し、日本海側では冬型の構図が続いて下降気味らしい。仮に多少天候が上向いたとしても2年前の様な鳥海山などは有りえず、下手をすると小屋に缶詰状態どころかたどり着く事さえ難儀と想像される。他のメンバーというと休みは合わないが早々と飯豊を選択し、既に飯豊連峰の西俣ノ峰〜頼母木山方面で話は落ち着いていた。

 遅れをとった自分だったがここは決断の時で、スキーの誘惑を断ち切る様にして同じ飯豊に切り替え、出発日も好天狙いの1月2日〜4日に変更して相方に電話を入れた。この身軽さは少人数パーティーの特権で、組織的な山岳会とか多人数のパーティーでは対応が難しいだろう。自分ではこのスタイルは気に入っており、見事に読みが当たるか否かも楽しみの一つだ。既に12月30日から単独ラッセルで先行している荒井さんの後を追い、1月2日の夕方梅花皮荘駐車場にテン張った。

 1月2日
 飯豊町から小国町に入るにつれ雪が少なくなり、長者原周辺では積雪はなんと60cmという状況で、自分だけはスキーに拘ったものの、この先の西俣ノ峰〜頼母木山に不安がよぎる。昨夜から風が吹いていたが積雪は少なく、気温が高めなのかアラレ状の雪がパラつく車道をヘッデンを付けて出発する。既に除雪作業に入った奥川入り荘を通過し、杉林を少し進んでから目標となる取り付き尾根を探し、大体の目安を付けて松の木下の藪に突入する。相方にはラッセルを頼んで板を外し、ワカンに履き替えてスキーを抱えながら後に続いた。100m程進むと岩場混じりの小尾根が現われ、右からキックステップを効かせて乗り越えると松の木の尾根が続く。ワカンでのラッセルなどおよそ30年ぶりだが、尾根に上がれば意外と雪も少なく締まっていて歩き易い。先頭の千田君には申し訳ないが楽をさせてもらい、心地よいキックステップを効かせて尾根上を目指す。

   
     西俣ノ峰へ通じる枝尾根はモンキーラッセル               松ノ木の揃った顕著な尾根と詰める

   
      尾根上は積雪80cmあまりで以上に少ない          暫くスキーで粘るが急斜面のジグはきつい

 ようやく尾根に上がればこの先はスキーの出番だが、この先も1mも無い積雪では先が思いやられてくる。しかしここで止められないのが山スキーヤーで、行ける所までと思いながらスキー走行に切り替える。すると突然下から登山者の声が聞こえ、間もなく休んでいる我々に追いついた。皆さんは同じコースから頼母木山〜北股岳を目指す下越山岳会の皆さんで、本隊3名の他日帰りのサポート隊4名という強力な布陣で、今日は強風を嫌って三匹穴下部のテント場を目指す様だった。

 これより先の尾根上ではラッセルを替わってもらい、私は藪交じりの尾根コースにてこずりながらスキーで進み、狭くて柔らかい急斜面にジグを切って後を追う。しかし45分も歩くとそこは限界となり、西俣ノ峰の100mほど下でギブアップしてワカンに履き替える。4年前の3月にはスキーアイゼンで強引に通過し、そのまま頼母木山の山頂に立ったのだが今日は残念。やがて西俣ノ峰山頂に到着するとまだ新しい標識が有り、その先の枯松峰方面に続く白い尾根が見え手来る。風は強いけれども意外に寒さは感じず、トレースはしっかりしていて歩き易いのでペースは捗る。しかし先行パーティーの姿はその先にも無く、我々はどんどん引き離されてしんがりを勤める。途中で単独で下降してくる女性登山者に挨拶した。

   
      視界100mあまりで次第に風も強まる                 西俣ノ峰には新しい標識が

   
  
先行パーティーのトレースに助けられてペースは捗る           3月と違って雪庇の発達が極端に少ない

  
西俣ノ峰を超えてやや下がった鞍部には4人用のテントが有り、どうやら昨日入った先行パーティーは頼母木山を目指して出発した様だ。この先の尾根は比較的緩やかな雪稜となり、左に出来た雪庇に注意しながら樹林帯とのコンタクトラインを進み、順調に進んで行くと途中から下山してきた先行3人パーティーと遭遇する。。やはり三匹穴から上部は強風地帯の様で、頼母木山山頂は諦めて下降して来た様だ。30日から単独で先行している筈の荒井さんの姿は見なかったと言うが、おそらく強風を避けて停滞でもしているのだろう。

 枯松峰を通過して鞍部を下って少し登り返し、無木立の広く平坦な斜面なると下越山岳会の本隊3名の皆さんに追い着いた。サポートの皆さんは下降したようで、既にテント設営の為の整地をしている様子だが、この先の三匹穴は強風地帯の為敬遠したとの事。昨年の同時期にACを三匹穴に設営したが、斜面はクラストしてテント設営には適さず、体が飛ばされそうになりながら苦労した模様。


 風雪が強まってきていい加減に疲れてきたが、先行の荒井さんが何処にいるのか解らないので我々は前進するのみ。次第に森林限界という雰囲気でさらに風雪が強まり、部分的にクラストした斜面にワカンの爪を効かせ、バランスを崩さない様にしながらさらに進む。すると120m程上った斜面で人の声がしてきて、誰かと思えば様子を見に降りて来た荒井さんだった。今日までの3日間は強風でどうにもならず、2時間おきにテント場周りを除雪しながら過ごしていた様だ。テント場周りにはテントより高いブロックが積まれ、堅固に守られたACには何か緊張感が漂っていた。

 我々も後に続いてブロックを積んでテント場を整地するが、ここまで担ぎ上げたのは実はエスパースの4人用夏テン。この後2人だけの室内は吹き抜ける風が冷たく、すっかり結露したテントはシュラフを濡らして辛い状況。冬の飯豊を舐めてしまったのは一大反省点だった。



    
      三匹穴下の斜面にブロックを築く                  翌朝は天気待ちの末頼母木山を目指して出発

 
1月3日
 朝起きてみるとテントの周りは吹き溜まりで埋もれ、狭くなったテント内で雪を押しやってようやく落ち着く。昨夜はまったく休む事無く風雪に叩かれてしまい、3時起床の予定もすっかり見送って暫く様子を見る。ようやく明るくなって来た頃に外に出て除雪を行い、お隣の住人と今日の予定を打ち合わせる。今日はチャンスを待ってアタックするか、または明日の好天を期待して停滞にするのか難しい。

 しかしダレて油断し切った我々2人とは異なり、登山靴を履いて既にスタンバイOKのお隣さんはやる気満々で、我々も次第に煽られて否が応でもお付き合いという雰囲気になって来る。その後も強い風雪は相変わらずだが、外に出て見ると三匹穴方面には既に標識が打ってあった。どうやら下越山岳会の皆さんは悪天候を突いて登っていった様だった。この状況ではとても北股岳を狙うという雰囲気ではないが、頼母木山までなら何とか到達出来るだろうか?我々も決断してようやく準備を整える。


   
      三匹穴上部からは強風地帯に突入                       三匹穴の標識

  アイゼンを履いてようやく10時近くになってテント場を出発し、先行パーティーの打った標識とGPSを頼りに前進
して高度を上げて行く。50m位高度を上げるとそこには三匹穴(1470m)の標識があり、この先からはさらに風は強まって視界も次第に効かなくなる。50m〜100mの視界だが先行パーティーの標識は続いており、我々も持参した標識を打ちながら後を追って行く。三匹穴から上部の尾根は広い斜面となっており、ここではコンパス&GPSが主役になり、ほぼ夏道どうりに進んで頼母木山に近づいて行く。

 傾斜の落ちた広い斜面を標識は右に向かっているが、我々は頼母木山への直登方向に標識を打って進んで行く。クラストしたシュカブラの斜面を上がって行くと、左前方から3名の方が下って来て合流する。主稜線に進んでいったん頼母木山山頂に立ったが、あまりの強風に進路を立たれて断念した様だった。ザックにはおびただしい数の標識が括り付けてあり、チャンスを伺って北股岳を目指そうとした雰囲気が溢れていた。行き当たりばったりの我々とは意気込みが異なる様で、3年続けての北股岳行には強い決意が現われているようでした。

 ここで主稜線から山頂に至るコースのアドバイスを頂き、ちょうどここで切らしてしまった標識の提供を頂いてさらに前進する。間もなく50m程の視界だったが突然平坦になり、反対側からの強烈な風を叩きつけられて立ち止まる。どうやら主稜線にたどり着いた様だが風はあまりにも強い。体の軽い自分などは体が浮いてしまい、ちょっと立ち上がると2〜3m程飛ばされてしまう。耐風姿勢を保ちながらデジカメを構えるのも楽ではなく、まともな写真も取れずにいったん10m程元の斜面に戻る。GPSによれば山頂まで標高50m程だが、このままの前進は不可能と判断して下降とする。なお、主稜線に出た所は広くなっており、頼母木山を目指して南(左)に進むポイントで間違い易いとのアドバイスも受けたが納得。

   
         
頼母木山直下の斜面を行く                山頂付近ではうっかりすると強風で飛ばされる
 
    
        標識は残置してそのまま下降                      視界100m前後の三匹穴方面

  
岐路には我々の残した標識が残っているので迷うことは無いが、時々GPSも使いながらどんどん下降して行く。山スキーでも同じだがGPSは下りにも強力な武器で、どんどん下っても方向を誤ることは無いので失敗が無く、短時間で確実に出発点に戻る事が可能だ。下りは速やかでおよそ30分あまりでテン場に到着する。
 
 テン場に戻るとようやく緊張感が解けた様で、テント場を除雪した後は荷物を入れて中でくつろぎ、余った時間は登頂祝い&新年会の舞台となって盛り上がる。確かに当初の北股岳狙いは脆くも崩れたが、この天候で頼母木山直下まで辿り着けたのは上出来だった。
 
   
     相変わらずの強風で再アタックは見送る                  ほんの一時顔を出した青空

 
  
       テントを撤収して後は下降するのみ                    枯松峰を目指してどんどん下る

 1月4日
 翌日の朝に天候が回復した場合には再度アタックの予定だったが、予報に反して朝から相変わらずの風雪続きでどうにもならず、テントを撤収して三匹穴から下って行く。途中でテン張っていた下越山岳会の皆さんに挨拶し、後は枯松峰を登り返した後はひたすら下降を続けて行く。時々青空を覗かせる空模様だったが、ついに主稜線は姿を現すじまいで、期待した杁差岳の東面を見る事が出来ないのも残念だった。西俣ノ峰を下る途中では迎えのサポート隊の方3名とすれ違った。

 同行の荒井さんにとっては何度も単独で通い慣れた1月の飯豊・朝日連峰で、既に川入〜飯豊本山・クサイグラ尾根〜烏帽子岳・竜門山〜大朝日岳を単独でトレースした強者だが、自分にとっては32年ぶりの1月の飯豊連峰で、殆ど冬の飯豊の初心者でしかなかった。今回は胸又は首までのラッセルという豪雪のイメージは無かったが、それでも厳しい要素を併せ持つ飯豊連峰に変わりは無く、結果としてまたとない思い出になった。ワカンの山行はどちらかと言うと敬遠気味だが、やはり飯豊・朝日連峰だけは別格の要素が有り充実している。

 下越山岳会の皆様には山頂直下で貴重な標識とアドバイスを提供して頂き、とても満足な山行となり感謝申し上げます。有難うございました。



※なお、今シーズンにトマの風の皆さん5名が飯豊連峰に入られ、杁差岳から主稜線をトレースして西俣峰コースを下降した模様です。

【日時】2008/12/27〜2008/12/30

【ルート】大石ダム〜杁差岳〜大石山〜頼母木山〜西俣ノ峰〜奥川入



   
     枯松峰から下の斜面は山スキーの舞台                  下降中にようやく太陽が姿を現す

   
             左手は倉手山                   飯豊山荘に至る車道も雪が少ない

   
     長者原方面の枯松山の山容は魅力的               西俣ノ峰からはどんどん高度を下げる




                川入〜西俣ノ峰〜三匹穴〜頼母木山  MAP