飯豊連峰 頼母木山(1720m) 西俣沢下降




頼母木山から見る地神山、門内岳



【日時】   平成17年3月19〜20日
【山域】   飯豊連峰
【コース】  3月19日 長者原 奥川入7:00〜西俣ノ峰11:30〜雪洞地点(1000m)13:15 3月20日 雪洞〜頼母木山11:50〜雪洞13:15〜西俣沢ゴルジュ13:50〜奥川入15:10
【メンバー】 坂野 荒井
【天候】   3月19日 風雪  20日 晴れ

 3月19日
 この連休は朝日に入るか飯豊に入るか迷ったが、結局2日間しか都合がつかなくなってしまい、初めて訪れる飯豊連峰の長者原からの頼母木山往復に落ち着いた。実はこの計画は相方の雪辱戦でもあり、この正月に頼母木山を目指し単独でこのルートに取り付いたものの、西俣ノ峰下で敗退したいきさつがあった。かなり無謀な計画にも思えるが、昨年の飯豊本山、2年前の大朝日岳を正月に単独登頂しているだけに、彼なりの目算があっての事だったろうと想像している。

   
         川入荘までの車道を行く                       尾根の末端は絶望的な雰囲気

 前夜の入山祝の疲れが少し残っていたが、ようやく雪の上がった梅花皮荘前を出発して奥川入に向かうが、道路の左右は4m程の雪壁が続く豪雪を思わせる景観で、この先の登山ルートの苦労を暗示させる。登山者は以外にも我々2人のみで、もちろん先行者のトレースも見当たらなかった。尾根の取り付きを探してみるが、この冬の失敗から夏道どうしに登るのが正しいと判断し、急峻で狭い尾根に取り付いて上部を目指す。しかし今年の大雪はいきなり我々に難題を投げつける。ルートはズタズタに寸断されて所々崩壊しており、尾根上に残った大きなブロックを乗り越えるようにして高度を上げてゆく。まだ朝でブロックは安定している様子だが、日中の気温が上がると崩壊しそうで、登りは良いが下降は危険極まりない様子。あまり気は進まないが、雪稜歩きを最も得意とする相方の跡をただひたすら追うように、おっかなびっくり慎重に乗り越えてゆく。

   
      カモシカの足跡も途中で折り返し                 こんな所はかんべんして欲しいもの

   
      こんなの登りには慣れたくない                       となりの尾根も絶望的な雰囲気

 ようやくブロック地帯を乗り越えて稜線に出ると、昨年の物と思われる赤布が上部に見られ何となく安心する。ようやくスキーの活躍の舞台となり、スキーアイゼンを取り付けてクラストした狭い尾根上の斜面にジグを切って高度を上げてゆく。しかし天候は下り気味で風が強まり視界も悪くなる。上部になるに従がって斜面はアイスバーンになり、西俣ノ峰直下の斜面は急で安全の為アイゼン歩行に切り替える。やっと西俣ノ峰に到着すると今度はいきなり風雪の歓迎を受け、視界も悪くなってきたので持参した標識を立てながら前進する。ちょうどコルに少し下がった時に天候は急変し、目も開けられない様な猛烈な風が吹き荒れて前進不可能となり、ツエルトを取り出してしばらく様子を見る。一時小康状態となるが再びぶり返し、まだ時間はかなり早いが予てからの予定どうり雪洞を掘って退避する。

 雪洞を掘るのは23年前の前穂東壁でのビバーク以来だが、こんな尾根上での風雪には雪洞が最適な事を身をもって実感している。以前は山行にスコップなど持参する事は無く、コッヘル、ヘルメット等で必死に掘ったが、今や常識の軽量スコップが力強い味方。掘り始めて1時間あまりで防御壁付きの、広々とした快適な居住空間を手に入れることが出来た。室内にマットを広げ、入り口をツエルトで覆うと少し時間は早いが宴会に突入する。外の暴風の気配も感じることなく、中では鳥の水炊きをメインにした鍋パーティーで大いに盛り上がってしまった。

   
        すっかりお世話になった快適な雪洞               
杁差岳が白くまぶしい

 3月20日
 翌日目を覚ましてみると期待した通りの見事な快晴。対岸には特に圧倒的なボリュームで白く輝く杁差岳が対座し、飯豊連峰の荘厳で美しい姿は実に印象的だ。まだトレースのされていない魅力的なルンゼ、雪稜に思わず目を奪われる。朝食の後荷物をデポして身軽になり、今日はスピードアップ図って主稜線を狙ってみる。頼母木山までの距離は長いが、この尾根上からの眺望は抜群に良く、新潟、福島方面の山屋の人気コースなっているだけに大きく期待が膨らむ。尾根上の斜面はすっかり風に叩かれて堅くなり、スキーアイゼンをきしませる様にして快適に登って行く。右手には手にとるような距離に見える杁差岳が美しく、左側には鋭い岩峰を連ねて飯豊本山に突き上げるダイグラ尾根の全貌が素晴らしい。1184m地点から先の森林限界を過ぎた辺りから飯豊の雄大な主稜線が近づき、快調なペースのため益々登高意欲が高まってくる

  
      
思わず杁差岳の美しい姿に目を奪われる                 ダイグラ尾根の全容 

   
            尾根上の巨大な風地形                    最低鞍部から先は雄大な景観が広がる

 今年の飯豊は大雪覚悟でやって来たが雪庇の発達は予想以上に大きく、15m以上は有りそうでこんな雪庇は今まで他に見た事がない。最低鞍部を通過してからは景観が変わって無潅木帯の斜面が広がり、飯豊特有の雄大な景観が広がる。やがて枯松峰を通過する頃から斜面はアイスバーン化し、風も強まってきてスキーでの登りも少しペースダウンする。次第に氷化した斜面が連続するようになり、エッジは全く立たなくなってスキーアイゼンの爪だけでのきつい登りが続く。一番の敵は突風で、先頭を切って歩いていた新井君は風に煽られて突然バランスを崩して転倒し、5mほど滑落したが何とか踏みとどまった。しかし足をひねってしまい軽い痛みを感じたようだが、大事には至らずそのまま登り続ける。

   
      スキーアイゼンの爪も半分程しか入らない                 後には朝日連峰の美しい姿

 
.上部を目指すに従がって氷化したガリガリの斜面が続き、強烈な突風が吹いて上りは次第に辛くなってくるが、現役会員時代の11月の富士山の雰囲気とダブってくる。そこで脳裏に浮かんだのは多くのスリップ事故で、スキーヤーが滑落し毎年多くの犠牲者が出た時を思い出させる。どんなにスキーの腕前に自信が有っても自然の猛威に対処できる者は無く、少しの油断が致命的な結果を招くという現実。山スキーでは色々な困難が待ち受けているが、雪崩れそうな吹き溜まりのルンゼよりもっと危険な所はアイスバーンの斜面だ。その緊張の度合いは同じでも自分のミスが結果を大きく左右する。

 頼母木山の山頂近くから見る鉾立峰、
杁差岳の美しさとは裏腹に、風は強まる一方で体ごと吹き飛ばされそうで気の休まる事が無い。主稜線の地神山、門内岳も雄大な姿を見せるが、近づくに連れて厳しさはまして我々を寄せ付け様としないようにも見える。ようやく山頂に到着したが門内方面は遠く、ここから退却するしか他に選択の余地は無い状況だった。

   
        
頼母木山直下の斜面を行く                   山頂では強風でゆっくり休む気分ではない
 
   
           大日岳方面                                 鉾立 杁差岳方面

 山頂での休憩もそこそこに下降に取り掛かるが、何しせこの強風ではまともにスキーで滑ることは難しく、止む無くスキーアイゼンを付けたままで一歩、一歩慎重に降りて行く。しばらく山スキーをやっているが、山頂からアイゼンを付けて下るのは始めての経験だがやはり安全優先で止む無し。それにもかかわらず先を行く荒井君は突然の突風に煽られて転倒。傾斜はあまり無かったのですぐに止まったが全く油断が出来ない。スキーアイゼンが今にも曲がりそうな堅い斜面を200mほど下り、いよいよお待ちかねの滑降に取り掛かる。

 シールを外して堅いアイスバーンを降りてゆくが、ここで要注意なのがスピードのコントロール。最近になって一般化したカービングの板はアイスバーンでは突然横に走ってしまい、スピードに乗ってしまうと危険である。微妙にエッジを効かせ、スピードとバランスを保ちながらの慎重な下降が必要だ。どちらかといえば脚力の弱って押さえの効かない我々中高年には不向きかも知れない。次第に斜面になれて風も弱まると後はもうご機嫌な世界がまっている。広い適度な傾斜の斜面はまるでスキーヤーの為にあるようなもの。眺望抜群の斜面をいっきに飛ばして最低鞍部まで飛ばしてゆく。
 
   
       まるで山スキーヤーの為の斜面                      西俣ノ峰を目指して滑り込む

 
  
         杁差岳をバックに一休み                           雪庇上の雪洞の戻る

 雪洞に戻り荷物を回収して西俣ノ峰に戻ったが、ここから先の復路は大変に悩む所。昨日のブロックを下るのは願い下げにしてもらい、あまり気の乗らない相方を道連れに西俣沢の下降を決め込む。斜面はすっかり柔らくなったので緊張感は感じなかったが、西俣ノ峰直下の急斜面を200m下り、さらに急なルンゼを下って西俣沢へ下降してゆく。斜面には重い新雪が20cmほど載っているが、30cm程のスノーボールが次々に落ちていって緊張する。表層雪崩れの跡を慎重に斜滑降で確認しながら下ると、下はブロックが散乱したデブリ地帯で緊張する。

   
       デブリを通過してゴルジュへ                         高巻の急斜面を下降

 更に傾斜の落ちた沢床を下ってゆくと今度は割れたゴルジュに阻まれ、シールを貼って右岸の急な雪壁を高巻いてトラバースしてゆく。やはり未知のコースを選択した者には試練が待っている。はるか頭上の崩壊しそうなブロックを警戒しながら通過するともう障害となる物は見当たらない。平坦な右岸を通って砂防ダムを越すと民宿奥川入は間もなくであった。但しこのコースは快適とは言いがたく、雪崩れの可能性も有ってとてもお勧めという訳にはいきませんので念のため。