2007年 沢登りの記録

 2007年9月30日(日)
 朝日連峰 障子岳東面スラブ 中間リッジ〜第2スラブ

 
 障子岳の東面スラブを訪れるのは実に32年ぶりだが、何時かは再訪したいと思いながら中々実現しなかった山行だった。この障子岳は朝日連峰の主脈からは大きく東に外れている為、一般的な山屋さんには知られる事も少なく、地元の人でもあまりトレースした事の有る人はいないようだ。標高1500mにも満たない山で、日本百名山的な発想からするとあまりインパクトが無いのか、快適な天狗小屋から近いにもかかわらずひっそりとしている。

 1974年の7月、クライミングを初めて間もない頃にここを訪れ、ヒマラヤ登山の訓練と称して東面スラブの開拓を行った。山頂近くの障子ヶ池のそばに重いビニロンテントを担ぎ上げてBCを設営し、第2ルンゼにフィックスを張って下降路とし、合計4本のルートを初トレースした。当時の「岩と雪41号」に仙台海外登山研究会の名前で掲載され、当時の仙台の山屋としては珍しい全国区への進出?だった。その2年後の6月頃に再び東面スラブを目指し、南俣から中崎沢の雪渓を詰めてスラブに取り付き、第2or3スラブを日帰りでトレースしたのが最後だった。

 最近マルチピッチを登る人が少ないようで、しかも沢を詰めてからのスラブ登りなどに興味を持つ人も少ないだろう。時代と共にこのルートも忘れられ、一つのスタイル・役割を終えた感がある。今のフリークライミングの概念とは違い、特に高難度を求めるルートでも無いが、しかし乾いた花崗岩の岩肌をフリクションで豪快に攀じる魅力も捨てがたい。
 下部の沢登りと後半のスラブのコンビネーションは、日帰り速攻スタイルの山行と考えても面白い。今回は滝の露出した中崎沢での高巻に苦しめられ、目標とするルートを外してしまったが、殆ど人の痕跡を残さない静寂の世界には惹かれるものがある。

【天候】 曇り

【コースタイム】 
駐車場 5:09〜F3 6:13〜大クビト沢出合〜3段の滝(左から高巻き) 8:00〜8F (右からの大高巻き)8:45〜中崎沢10:07〜取り付き11:10〜第2スラブ終了14:18〜駐車場16:30

【メンバー】 
荒井 千田 坂野

【概要】

 
早朝に紫ナデ方面への登山口近くの林道をヘッデンを付けて出発し、まもなく大井川の河原に降りてからゴーロ歩きが始まる。まったく平凡なゴーロ歩きをしていると、河原には昨日のものと思われるスパイク足袋の跡が有り、禁漁直前に釣り歩く釣り師が活動中のようだったが、下山後に出会ったその釣り氏は、沢の中で今まで見た事も無いような大きな熊と出会ったようだ。

 まもなく沢は狭くなると小滝が出て来て深い釜を持ったF3となり、良く見ると左岸(右側)のクラックにはには最近打ち込まれたと思われる異型鉄筋、見た事も無いようなアンカーボルト等計4本があった。荒井君が昨年大ビクト沢と単独遡行した時にはなかったようだが、どうやって打ち込んだのかと思えるような土木工事現場だった。

 早朝からどっぷり水に浸かりたくはなかったが、意外と冷たさは感じず右からクリアーし、さらにゴルジュ模様となって小滝を越えて行くと突然東面スラブが目に飛び込んでくる。

 ここまでは予想通りでスムーズに通過できたが、この先が意外と厄介な滝が出て来て手こずってしまう。次の20mの3段の滝は3段目がゴルジュのスラブ滝で登れず、2段目の滝から左を高巻いて上がるとその先にはもう1本20mの滝が出現し、40分ほど掛けてようやく中崎沢に降り立つ。
 沢床に降りてみるとまもなく3mの滝が現れて右から越え、続く深い釜を持った3mの滝を胸まで浸かって左からj越して行く。渓も開けて明るくなって東面スラブが近くなり、順調なペースでまもなく取り付き点もすぐと思われた。しかし、ここに出てくる10mののCS滝に行く手を阻まれ、比較的楽勝に思える左岸の高巻
きに取り掛かる。

 しかし、これが意外な大高巻の始まりでどんどん追い上げられ、結局ゴルジュの中に滝が出てきそうなのでその後もまとめて高巻く。岩壁下のトラバースは高度感もあって緊張し、久しぶりに腕がパンプしそうで気が気ではなかったが、先行する二人は余裕で通過して行く。今シーズンは朝日の荒沢〜東俣沢飯豊の胎内川〜本源沢を完登し、共に是好調の二人には付いて行くのがやっとだった。
 

 25mの懸垂で狭いルンゼに降り立ち、小さな空滝をクライムダウンするとようやく中先沢に降り立つ事が出来た。下を覗き込むとゴルジュに守られた15mの滝があった。32年以上も前の6月頃に日帰りで第3スラブ辺りを登った記憶が有るが、厄介な高巻の記憶など無く、雪渓から簡単にスラブに取り付いた印象しか無い。こんな筈ではなかった。

 雪渓が消えた岩だらけの沢床から東面スラブを見上げ、目標を第1スラブに定めてその先の滝を右から越えて行く。第1スラブは下部から顕著なコーナーが走り、ハング下を左にトラバースするとスラブの真っ只中に入って行く。荒井くんがトップで取り付くが意外とすぐ行き詰まってしまい、仕方なくフラットなスラブ状のバンドを微妙なフリクションで斜上し、初登時の中間リッジの2P目辺りに逃げる。第1スラブを初登した時にはシュルントが開き、下部は中間リッジに取り付いて2P目から左に懸垂し、悪いハング下をトラバースして登っている。

 この先は傾斜が落ちたリッジ通しに直上し、3Pほどロープを伸ばすと右側の第2スラブ上部に入って行く。傾斜の増した第2スラブだがフリクションは抜群で、ブッシュにランニングを取りながらどんどん登って行く。階段状のフェースは手が切れる様な花崗岩で、まったく人の痕跡を残さないような快適ルートだった。最後は60mの薮漕ぎですっかり息が上がってしまったが、久しぶりの岩との戯れには忘れかけた感覚が戻ってきた。

 障子岳の周遊コースは見事の刈り払われ、秋の紅葉シーズンに向けて用意は万全の整えの雰囲気がある。しかしながら紅葉が進んできた稜線上で出会う人は誰も無く、自分好みの静寂
世界が広がり、32年前とは何も変わらぬ障子岳だった事が少し嬉しかった。1時間45分位の下りで駐車場に帰着した。

 このルートは9Pと薮漕ぎ60mで登山道に飛び出したが、下部の高巻で手間取った我々にはちょうど良いコースタイムだった。目標の第1スラブに取り付けなかったのが残念だが、今度の6月頃には快適&スムーズな1クライミング期待したいところです。

 ※所要時間 11時間20分



         中間リッジに逃げてロープを伸ばす

        中間リッジから右の第2スラブを目指す

       フリクション抜群でどんどん伸ばす

     リッジから第2スラブを目指してロープを伸ばす

        第2スラブの上部は意外と階段状

       高度感も出て来てなかなかのロケーション
             薮漕ぎ60mで登山道に飛び出す


              岩と雪41号より転載


朝早い泳ぎは勘弁して欲しい

高巻も辛そうなので登るはめに・・・。

大井沢の中間部からは本格的な沢。

そのまま平凡な沢歩きを期待したが・・・。

突然視界が開け面スラブが姿を現す

20m3段の滝は2段目から左を高巻く


高巻いて見るとその奥にはもう1本の滝が出現

右から快適に越えて行く

胸までの釜を越えて直登

大きく渓は開けて東面スラブが近づく

10mの滝から右の大高巻が始まる

いったん沢床に降りてから再び左岸(右側)からの大高巻き

追い上がられてからは岩壁下のトラバース

左から第2. 3. 4. 5. 6 の各スラブ群

第1スラブ取り付き点を目指して

第1スラブ取り付き点は意外と悪い



朝日連峰 障子岳中間リッジ〜第2スラブルート MAP

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