朝日連峰 障子岳周遊 2007.04


    

      朝日連峰 障子岳の東面 (1481.5m)

     

 山 域  朝日連峰 障子岳 (1481.5m) 
 山行日時  2007年4月8日(日)
 天 候  曇り
 メンバー  単独 
 行 程  南俣4:50〜竜ヶ岳〜粟畑8:50〜障子岳10:00〜紫ナデ11:10〜1165mピーク12:15(仮称 マンモスの鼻)〜南俣13:35 「パチンコルート」  GPS積算距離 24.0km 

 
 障子岳は朝日連峰の主脈からそれている為、わざわざここを訪れようとする人は少ない様だ。殆どの登山者は南俣から竜ヶ岳を経て天狗小屋に至り、長いアップダウンを繰り返して三方境に立ち、竜門山あるいは遥かなる以東岳を目指す。どちらかと言うと天狗小屋は出合川流域での釣りを楽しむ釣り客に人気が有り、主稜線までアルバイトのきついアプローチとしては山屋さんにも敬遠されがちな存在。

 天狗小屋まではこの時期時々山スキーで入る人もいる様だが、障子岳を経て紫ナデから周遊する物好きは少ない。粟畑から先の稜線歩きは狭く雪庇が発達し、薮がらみのアップダウンをへてのコースはあまり快適とは言えないが、右手に鋭く切れ落ちる障子岳東面の覗き込みながら、緊張感溢れるツアーコースは実に充実感がある。天候さえ良ければさほど難しいコースではないが、天候が急変するとちょっと難儀なコースとなるだろう。

 昨年の4月の同時期、反対側の紫ナデから左周りで障子岳を目指したが、紫ナデで風雪に阻まれて断念した。今回は登りやすい反対廻りで竜ヶ岳経由での周遊を目指し、天候もあまりぱっとしない空模様との駆け引き次第のワンチャンスを狙った。



取り付きからは緩やかな尾根 竜ヶ岳を目指して 雪庇の崩壊が進む
 
 南俣に至る林道は何時もの橋で除雪終了となり、あまりぱっとしないお天気模様の中を出発する。歩き始めて30分くらいで南俣に到着し、左にコースを取って竜ヶ岳方面の尾根に取り付き、まもなく杉林を経て顕著な尾根を(辿って竜ヶ岳を目指す。焼峰に至る尾根上は既に雪庇の崩壊が進み、一部露出した箇所は板を2度外して乗り越えて行く。以外にも次第に青空も顔を見せ初め、気温も次第に上がってきてジャケットを脱ぎ、額に汗止めのタオルを締めて快調に進んでゆく。

 焼峰
が近づいてくると右手に突然姿を現す障子岳の東面。山頂から大きく張り出したダイレクト尾根はボリューム感が有り、鋭く切れ込んだ砂吹立沢と黒々と露出したスラブ帯は見事な姿で、アルパインクライマーだったら一目置く風格を備えている。のっぺりとした東北の山のイメージなどとは程遠く、何か挑戦的なメッセージを送り続ける印象がある。
 
 
コースは竜ヶ岳を右に巻いてブナ林の急斜面をトラバースし、急峻なルンゼを足早に通過して竜ヶ池を目指す。気温は上昇加減で雪質はザラメ化し、シールも程よく効いて何の不安も無くスムーズに通過する。夏道は鬱陶しいて暗いイメージしかなかったが、この時期は潅木が隠れて明いブナ林で、静かな竜ヶ池周辺などならテント泊して一杯やるのも良いだろう。

突然姿を現した障子岳の東面 紫灯森を目指して姥ヶ岳の北斜面をトラバース

上部にはまだブロックが・・・ 竜ヶ池は静かなブナ林の中 対岸には遠く赤見堂岳の姿
 竜ヶ池を過ぎて緩やかな尾根に戻ると、この先の粟畑に至るコースがすっかり見渡せ、その奥には寒江山方面の朝日連峰主脈に通じる長い尾根が続いている。主稜線はすっかり分厚い雲に覆われ、何れやって来る雨雲の存在が何となく気がかりだった。この先は何時でも逃げる準備が出来るように、退却時間を頭の中に入れながらさらに前進を続ける。幸い日本海の低気圧が停滞した為か雲の動きは思ったより遅く、すっかり姿を見せた障子岳のピークは射程距離内となり、次第にやる気が出て来て順調に高度を稼いで行く。

 ロボット雨量計がある付近の尾根は広い無木立斜面で、スキーで下るならロケーションも抜群な快適コースだろう。大きくジグを切って斜面を登って行くと、左手には尾根上にポツンとたたずむ天狗小屋の姿が有るが、立ち寄りたい誘惑を断ち切って粟畑からコースを障子岳方面に取る。ここまで来ると障子岳が自分を待っている様で、何か引き付けられた様に雪庇の張り出した尾根を越えて行く。

障子岳東面のスラブ群が露出している 粟畑から障子ヶ池方面の稜線
粟畑を目指して快適に高度を上げて行く 天狗小屋方面から先は分厚い雨雲が・・・
 
粟畑を過ぎるとコースは今までとは一変し、痩せた稜線で東側には連続した雪庇が張り出す。ただ、西側はやや緩やかな潅木帯になっており、雪庇を警戒しながらコンタクトラインを通過して行く。ただ、雪に隠れた雪庇のクラックが有り、ぼんやりしていると足を取られてしまい、運が悪いと腰くらいまで沈んでしまう。竜ヶ岳を過ぎて障子岳の山頂付近になった頃、ストックリングが外れてし、慌ててスコップで掘り返して探し出した。ガムテープで応急処置をしてそのまま使用したが、結局紫ナデを過ぎた辺りで再度紛失してしまった。

 障子岳直下の痩せた尾根で再びスキーアイゼンをセットし、雪庇を左にかわして一旦ブッシュ帯に逃げ、再び雪庇側に戻ってようやく山頂に立つ。今日は少しあられも降ってきたが、幸い風も無く視界良好で問題ないが、天候急変が急変して視界不良となると厄介で、進むのも戻るのも難儀になる。間違って東面に落ちるとまっ逆さまで、遥か下の谷底まで止まることは無いだろう。要は軽量化した上でのスピードアップこそ基本で、天候が悪化する前に核心部を通過する事が必要となる。


粟畑から障子岳に至る稜線 山頂直下の斜面は左一部のブッシュ帯を通過

出合川対岸の以東岳方面 山頂から粟畑・天狗の角力取山方面を振り返る
ようやく辿りついた障子岳 紫ナデ方面の下降はちょっと厄介な尾根
 残念ながら以東岳山頂方面は雲に覆われて見えないが、北側の大桧原山から赤見堂岳方面に続く長い稜線が見える。山頂では缶ビールなど開けてゆっくりしたい所だが、今は持ち合わせも無いのでデジカメでパチパチやると、後は速やかに紫ナデを目掛けて下降コースを下りて行く。東面の雪庇を警戒して急な尾根を下りて行くが、下から見るのとは違って西面は薮がらみとなり、厄介な斜面を慎重に下りて行く。決して快適とは言えないが、急斜面でなぎ落ちる東斜面は実に迫力があり、この場に立った人間でないと満喫できない充実感がある。

 ここから見る紫ナデから大桧原山に至る稜線は意外と長く、さらに続く赤見堂岳〜石見堂岳、そして最北の鍋森山までは、山スキーではスケールの大きなロングツアーコースとなるだろう。最近メジャーとなったパウダースキーとか、エクストリーム系の急峻なルンゼ滑降など、スキーもより専門性が高まった感がある。しかし、やはり山スキーの王道はスケールの大きなロングスキーツアーではないかとも思う。

紫ナデから大桧原山へ続く稜線 障子岳の東面スラブが切れ落ちて緊張感有り
障子岳からの下降コースを振り返る 障子岳の中先沢(中央)を滑った山スキーがいるとは・・・
 山頂からはシールを付けたままで下降し、最低鞍部からは尾根も広くなって傾斜も落ちてくる。紫ナデまでは多少のアップダウンを繰り返し、のんびりムードで最後の緩やかな斜面を登りき切る。ピークに立って後ろを振り返ると、急峻な障子岳東面の壁が眩しく輝き、何者も近づけ難い厳しい風格を感じる。しかし、この東面の中先沢を3年前の4月のこの時期に滑った方がいるから驚いてしまう。今の状態なら沢はブロック雪崩れの走路で、最後の急峻なノドの部分は雪面が切れて岩が露出している。残念ながら自分の出番ではなく、見るだけで十分満足なコースに思えた。

 昨月の同時期、紫ナデで風雪に捕まり、ツェルトを被りながらガタガタと震えていた時とは別世界で、天候も持ちこたえてくれて感謝の1日となった。缶ビールを持ってこなかったのは失敗だったが、何時ものハイオク梅酒を取り出してグビグビやる。ここならスノーモービルの騒音に邪魔される事も無く、一人でご機嫌気分満喫の世界に浸る事が出来た。

紫ナデでは赤見堂岳方面を眺めて一人宴会 いつかはこの稜線を全て走破したい気分
何時まで眺めても素晴らしい風貌 対岸には竜ヶ岳の姿
 
 紫ナデでようやくシールを外して準備を整え、後は南俣を目指してお楽しみの時がやってくる。夏道コースは狭く雪庇が入り組んで崩壊が始まり、とてもまともな下降ルートにはならない。昨年と同様に1196mピークから左の尾根を通過し、シール無しで多少のアップダウンを繰り返して目標の1165mピークに立つ。


 ここから先は今日のご褒美となる素晴らしい斜面。昨年も滑っているが、標高差550mあまりの連続したブナ林のツリーランが続き、一気に南俣まで滑り降りる豪快な斜面が待っている。コースは広くてほぼ連続しており、まるで天然のスキー場といっても差し支えないだろう。雪は適度にザラメ化しており、予想以上に板が走って豪快かつ快適なクルージング。これが1〜2月頃だったら素晴らしいパウダー斜面となっているだろう。月山の姥沢下のパウダー斜面と比べてもはるかにスケールが大きく、南東北ではこれほどの規模のツリーランコースは見たことが無い。勝手ですが、仮称「マンモスの鼻」と命名しておきます。 尾根が広いのでGPSをチラチラと見ながら一気に下降し、杉林を通過して南俣からは約30分ほどで駐車場に戻って終了した。

分ここまで天候が持ってくれたのは幸運 紫ナデ下から1165mピークを目指して降りて行く
分多少のアップダウンを経て1165mピークへ ここからは高度差550mに及ツリーランが待っている




朝日連峰 障子岳周辺 MAP