船形連邦 沢渡黒伏山 (1235m) 




南面から見る沢渡黒伏山の山頂付近。




 山 域  船形連邦 沢渡黒伏山 (1235m)
 山行日時  2005年 10月30日  
 天 候  曇り
 メンバー  木村 坂野

 沢渡黒伏山という山をご存知でしょうか?この山は東北のアルパインクライミングのルートとして名の知れた、黒伏山南壁本峰の北西約1.0kmに位置する、地元でもあまり知られていない山だ。最近になって「山形百名山」に加えられた様だが、私も今年になって始めて知った山。黒伏山南壁には過去シーズンを通して4〜50回位は訪れているが、5万図にも山名の表示が無くそん名の山が有るとは知らなかった。

 この山はかつて修験場としてかなり栄えた様で、麓の黒伏山神社から龍王洞を経由して頂上に至るコースは、参道として多くの修験者が訪れ、その先は尾花沢側の層雲峡方面に通じていた。確かに今でも鳥居から黒伏神社にいたる上り坂は荒れているものの杉の大木が残り、参道としての面影がはっきり残っている。頂上に至る参道の中腹(標高800m)には洞窟があり、龍王洞と呼ばれてかつて黒伏山を開いた道知方印という人のご神体が奥に鎮座している。この洞窟は入り口は狭いが奥行き30m程もあり、一人がやっと通れる幅の空間の奥にそれは祭られていた。この山は地元の山屋さんでもあまり訪れることは少なく、どこと無くひっそりとした静かな山だ

 この地域は御所山(船形山)を中心とした山岳信仰が盛んで、1300年も昔から多くの信者が通いつめる聖地だった様だ。柳沢林道奥の観音寺登山コースも同じ修験道で、船形山に至るこの辺りは全体的にそのような山だった。なお、我々が黒伏山と言っていたのは「観音寺黒伏山」が正式名称で、その本家は「沢渡黒伏山」だった様でまったく意外だった。

なお、地元山形では「くろぶしやま」と呼んでいるが、仙台のクライマーは今でも「くろぶせやま」と呼んでいる。確かな理由はわからないが、おそらく仙台の人間が勝手に読み違えたのではないだろうかと思っている。30年ほど前に南壁を訪れるクライマーは仙台の人間が殆どで、地元山形の方と会って話をした記憶は殆ど無く、交流のようなものは殆ど無かった。私が初めてその違いを知ったのは今から僅か13年目で、西川山岳会の方と会った時だった。
 コースタイム= 鳥居登山口8:20〜龍王洞8:50〜山頂9:50〜鳥居登山口11:45

 最終部落から登山口に至る林道は砂利が敷かれて整備されており、最初の分岐を左に入るとま新しい鳥居が有る。身支度を整えて歩き始めると樹齢100〜150年程経った見事な杉林になり、その奥に個人まりとした黒伏山神社が有った。内部は綺麗に修復されており、地元の方の今でも篤い信仰の様子が伺えた。壁には2冊のノートが残されており、登山者が残した記録帳になっている。その中にはH9年3月に記載された、沢渡黒伏山南面のルンゼ、リッジ等のトーレスの記録が有る。夏に取り付いたら藪でめいってしまうだろうが、3〜5月の時期の雪壁、リッジならお手軽でいかも知れない。しかし実際は木登りかも?

登山口の新しい鳥居 黒伏山神社 内部

 神社を過ぎるとミズ楢とブナの林となり、急な登りの心もとない踏み跡が続いている。両手を使って登る様になると鎖場が登場し、そこを乗り越えると視界の開けた岩場になり、龍王洞の入り口に到着する。入り口には先に到着した2名の地元登山者がおり、すでに内部の探索を終えてこれから頂上を目指す所だった。早速ヘッデンを取り出して狭い入り口から内部に降りてゆくと、一人がようやく通れる位の空間が続いており、30mほどいった所にご神体が祭られていた。その先は入ってはいけない事になっているらしく、我々も右廻れをして入り口に戻った。内部はコウモリの御殿になっており、お休みの所にちょっかいを出してみるが逃げもしない。神の僕なのか、観光客慣れしているのか、罰が当たるので捕まえてコウモリスープにしよう等と思ってはいけない。

 洞窟から先はなお急になり、リッジに阻まれて左から回り込んでから尾根に戻る。さらに進むと壁に突き当たり、いったん右の斜面を降りてから50m程トラバースし、ズルズル滑りながら小沢状になった急なブッシュ斜面を登る。所々大きくマーキングされているが一部不明瞭になり、踏み跡を頼りにひたすら上を目指してゆく。すると突然岩場が現れて視界が開け、30mほど進むと頂上 にたどり着く。

ミズ楢とブナの林を行く 龍王洞の入り口 内部は人一人がやっと

 残念ながらガスに覆われて頂上での視界は聞かず、期待していた北面の様子も垣間見ることは出来なかったが、何かよその山とは違った印象深い物がある。このコースはとても登山道と言えるような代物ではなく、上部はまるで沢での高巻を稜線までつきあわされている様で、決して一般的なコースとは言えない。下降時にはトラバース地点でコースを見失いやすくまた滑りやすいので、初心者の方は経験者の同行が望ましい。下りは50分程で鳥居に帰着する。

内部のご神体 洞窟の主 頂上から北側を覗く

鎖場を下ってゆく 表参道の面影


  


沢渡黒伏山 ルートMAP