2004年 沢登りの記録

 2004年7月31日(土)
 二口 大行沢本流(樋ノ沢)〜大東岳

【コースタイム】  
本小屋5.30AM〜大行沢〜樋ノ沢小屋9:40AM〜樋ノ沢〜大東岳2:45PM〜本小屋5:15PM
【メンバー】  単独

 先週は山形方面の大雨の為に流れた沢歩きだったが、今回こそはと選んだのは昔に良く通い詰めた二口エリアの大行沢。ワンゲル時代から二口界隈の沢は結構トレースしたつもりだったが、どういう訳かこの大行沢は遡行した事がない。今や日本の百名渓にランクされそうな勢いの全国でもメジャーな沢になっているらしいが、その当時は滝の多い小松原沢、京淵沢、泣虫沢などに関心があって、滝の数が少ないこの沢はさほど人気は無く仲間内では話題になることも無かった。時代が変われば人の見方も変わり評価も上がり、これだけ出世した沢も幸せ者というべきか。

 二口バンガローの駐車場で身支度を整えて、大行沢出合に掛かる橋の下から出発。どうやら一番乗りらしく先行者の形跡は見られない。広い川幅を過ぎると両岸が切り立ったUノ字の渓で、早速ナメ床を持ったゴルジュ帯が続き、釜を持ったへつりを行いながら先を進む。二口独特の柔らかくてヌメリを持った岩質は、最近のウェーティングシューズのフリクションがあまり効かず、この地ではやはりワラジが一番という印象が強い。途中にはあの懐かしいコンクリート釘にシュリンゲがぶら下がっており、躊躇することなくホールド代わりに利用させてもらってへつってゆく。途中で面倒なへつりは諦めて、ドボンと飛び込んで釜を泳いで先に進む。

 ゴルジュを過ぎるとしばらくゴーロが続き、その先は巨岩が出てきて小さな岩魚の姿が初めて見られ、そのまましばらくゴーロ進んでゆくと梯子滝が現れる。右岸のバンドを斜上すれば行けそうだが、ピンが2本ほど欲しい感じなので、今回はあっさり諦めて左岸から高巻く。そのまま高巻いてゆくと地図上より80mほど上部尾根上の登山道に飛び出し、少し先の再び沢に下りる踏跡を下って大行沢に戻る。

 沢に戻ると前方には登山道の途中から入渓したと思われる釣師の姿が見える。挨拶をして先を行かしてもらうとようやく有名なナメ滝が連続して出てくる。なるほど開けた沢に美しいナメ床が次々に出てきて、お客さんをあきさせない癒し系の沢歩きが楽しめる。しかしようやくにテンカラ竿を取り出して毛鉤を振ってみるが、どうも魚影が無くあたりも全く無い。ナメ床の釜は浅く、魚の隠れる岩も少なく岩魚にとって居心地の良い場所ではなさそうだ。

 この先はナメの連続した静かな沢進んでゆくと、カスケ沢出合を過ぎて間もなく樋ノ沢とハダカゾウキ沢の出合に到着する。樋ノ沢小屋はすぐ目の前だが、ここでハダカゾウキ沢出合の滝を越して先に進んで見る。しかし沢は狭く水量も少なくつまらなそうなので、間もなく諦めて隣接する登山道にでて樋ノ沢小屋に戻る。小屋の傍で小休止していると、先ほど追い越した釣師がやって来てきた。下で先を譲ってもらったので今度は釣師に先を譲り、ここでは大休止にして昼食とする。

 今回は約30年ぶりに二口山塊にやって来たので、特に大東岳は是非登頂したいと思っていた。何しろ32年前の最初の登山はワンゲル合宿で登った大東岳であり、自分にとっては山屋の世界への出発点だったので特に思いで深いものがある。当時の合宿はいわゆるシゴキ合宿に近い状態で、重くて背負い心地の悪い76cm幅の特大キスリングを担いだ1年生部員は次々に倒れ、ザック麻痺があたりまえと言う状況だった。しかもサブザックを背負った4年生部員が途中から現れ、新人部員の尻を叩いてゲキを飛ばすと言う構図が常識だった。
今となれば懐かしい笑い話に過ぎないが、結局その後卒業した部員の殆どは山とは無縁の世界へと散っていった。

 当初はカスケ沢右俣もトレースする予定だったが、大東岳の登頂を第一に考えて予定を変更し、樋ノ沢を詰めて南面白山との鞍部を目指す事にする。しばらくして樋ノ沢小屋を出発して樋ノ沢の連続するナメ床を登ってゆくと、先ほどの釣師が帰ってきた。様子を聞くと今日は大行沢の巨岩帯の中間部で1匹釣った以外はまったく釣れず、魚信も殆どないという事で諦めて下降していった。

 樋ノ沢は水量が少なくなり川幅も狭くなってゆくが、ナメは相変わらず連続して気持ちよく歩く。しかし次第にナメも次第に途切れがちになり、単なる小沢になってしまう。だが広く開けたのんびりムードのブナ林の源頭部なので、間もなく稜線と軽く考えたのが大きな間違いの元だった。視界の効かないブッシュ帯に続く涸れ沢を忠実に辿っていったところ、何時の間にかコースは大きく右に回りこみ、来た方向とは逆に方向に進んでいた。コンパスで気が付いた時にはもう既に高度950m程をさしており、どうやら大東岳の北東面をダイレクトに突き進んでいる様子だった。

 どうにかして北方向に進路を変更して鞍部に出たい所であったが、背丈より1mほども高い太い熊笹に阻まれ直進は出来るが左折、トラバースは出来ないと言う困った状況。仕方なく直進すると嫌でも大東岳山頂を目指す他は無い。猛烈な熊笹とまことに厄介な石楠花の木に阻まれ全く視界は効かず、まるで平泳ぎでもするように頭から突進する感じ。全身の力が抜けてゆくような疲労感で、油断するとブッシュの中で体が開いた状態で固まってしまうような気がしてくる。思えば全く初歩的なミスで、ブッシュ突入前にコンパスで方向をしっかり確認さえしていれば防げた話だった。

 途中から元来た樋ノ沢を戻ってきても良かったが、半ばやけになって大東岳山頂を目指して空中遊泳のような藪漕ぎを続け、2時間30分の苦闘の末、山頂の50m手前で面白山方面に続く登山道に飛び出した。沢登りに藪漕ぎはつき物とはいえ、まさか二口の山塊でこんなにヘビーな修行が待っているとは思っても見なかった。どうりで大行沢はカスケ沢右俣を詰めるのが殆どで、何も大東岳を詰める物好きなど誰もいないはずだが、しかしまあ、登り終えてみるとそれなりの満足感も感じる。下降路は表コースを下ったが、滑りやすいフェルトソールに難儀し、1時間45分掛けてようやく元小屋にたどり着いた頃には、今日の行動時間が11時間45分程になっていた。


5mの滝は左岸から容易に高巻く

梯子滝も左岸から大きく高巻く

ナメ床を静かに進む

連続したナメ滝

樋ノ沢の出合

ハダカゾウキ沢の出合

樋ノ沢もナメがしばらく続く

30年ぶりの山頂