今までは栗子山塊という名も知らず、東面の滑谷沢もまったく聞いた事もはなかったが、実は関東方面からやってくる沢屋さんは意外と多い。
栗子山とは福島県と山形県を貫く国道13号線栗子峠の東側に位置する山で、標高は1216.6mに過ぎない何となく地味な存在だ。県境沿いには一部の踏み跡程度の道しかなく、地元の方とかマイナー好みの山屋さん以外は訪れる人も少ない様だ。
この滑谷沢を下流域からの遡行するのは遠くてアプローチし難く、西側の国道13号線の東栗子トンネル側から荒れた急峻な砂利道を入る。昭和41年に現在の栗子峠トンネルが出来ると共に廃道になった旧国道(万世大路)を利用し、すでにすたれて崩落が始まった二ッ小屋トンネルを抜け、鳥川橋の駐車場から鳥川を下降してゆくと滑谷沢の出会いに辿り付く。
生憎の天候で飯豊・朝日方面の沢は諦めたが、太平洋側の栗子山塊はあまり天候が崩れる様子もなく、予測は的中してのんびりながらも癒し系の沢を満喫することが出来た。
【日時】 9月19日(土)〜20日(日) 曇り
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【行程】
9月19日
6:44烏川橋〜8:44滑谷沢出会い〜10:19二俣滑谷沢右俣出合〜12:31二俣830m ビバークサイト
9月20日
6:44(ビバークサイト)〜8:01最後の二俣〜9:26 9:51栗子山〜12.11左俣支流出合〜13:10駐車場〜13:45烏川橋
【メンバー】 荒井 坂野
【概要】
9月19日
早朝に仙台を出発して東栗子トンネルに到着したのは6:00AMを過ぎていた。トンネル出口からスキー場跡という悪路で急な砂利道を登り、時代を感じさせる二ッ小屋トンネルを車で通り抜け、5分くらい下ってゆくと鳥川橋そばの駐車場に到着した。この間は荒れた砂利道も多く、トンネル内は2ヵ所ほど崩落しているが、車高の高い4WDの車なら通過は可能だった。
現場には先行するバイクが1台あるだけで、予想した釣り屋さんの車は無かった。身支度を整えて鳥川本流を降り立ち、滑谷沢の出合いを目指して下降して行く。
渓相は明るく開けて緩やかなナメ滝が多く、緩やかな流れがブナの2次林に溶け込んだような、何とも新鮮な渓相は心が和んでゆく。ゆったりとした流の中に白い花崗岩の岩床や滑滝が連続し、植生が薄くて深く切れ込んだ登攀的な飯豊・朝日の沢とは異次元の世界だ。
途中1ヵ所のみ3mの滝にトラロープが残置されいたが、流石に釣り屋さんの沢なのだろう、ごみの散乱しているのは頂けない。
滑滝沢出合までは1時間45分で辿り付き、朝食はバナナで済まして滑谷沢を遡って行く。鳥川本流より沢幅はやや狭くなり、両岸から灌木帯が迫って何時もの光景となるが、評判の滑滝は要所に出てきて歩きやすく、2〜3mの小滝も時々出てきてそれなりに楽しめる。標高はわずか1202mの栗子山だが前日の雨もあり、、流域が広いのか意外に水量は多かった。
ほとんどの滝はフリクションで超える事が可能で、直登出来ない滝には立派すぎる位の巻道があって我々を導いてくれる。途中で先行するマイタケ取りの単独の方に追いついたが、どうやら今季は10日前後遅れている様で、今日は様子見で途中から右の尾根を越えて隣の沢に入り、沢を下ってから鳥川本流を登り返す様だった。
滑谷沢右俣の出合には1時間半位だったが、その先は急に沢は狭くなり、2〜5m前後の小滝が出てきて変化してくる。二口や船形の様な渓相になるが、滑滝は多く出てきて飽きる事はない。ただ、10cmもあるブナの木が切られて沢に横たわっており、見ると切ったばかりの新しい切り口だった。
いったい誰が何の為かと不思議に思ったが、もしかすると毛鉤を使う釣屋さんの仕業だとすると見過ごすことは出来ない。それとも釣り糸が引っ掛かったのか?今までゴミの放置にはあきれていたが、ここまでの実力行使は見た事がない。
しばらく進んでゆくと先行する2人のエサ釣りの釣り屋さんに追い付くと、滝壺で1匹釣り上げている時だった。「釣れますか〜?」とわざとらしく声をかけ、三言くらい位
立ち話をして「お先しますね〜♪♪」と軽く流して先行させてもらう。声に出す事はなかった様ですが、さぞかしご立腹のご様子とお見受けしました。ご免なさい〜。
その先はやや狭くなってきて倒木が多くなり、ミニゴルジュ状でやや単調で雑な感じもするが、たまに魚の走る右俣は予想以上に楽しめる沢だ。間もなく二俣に到着してしまったが、ここが中々のキャンプサイトで先行者によって整備され、あまりにも早い時間帯だが今夜の宴会場に決める。
早速ビールを冷やしてマキを集め、真昼間からの宴会に突入したのは言うまでもない。いい加減酔いが回った頃にテンカラ竿を取り出し、左の沢を釣り上ってみたものの、魚にはさっぱり相手にされずにすぐ諦めた。やはり、釣り屋にはなり切れない性分の様だ。
9月20日
早朝の空は少し心喪とない感じだが、山頂まではいかにも楽勝に思えたので気持ちも楽だった。二俣から先はやや狭くなるが、両岸は苔蒸むして静寂がみなぎり、深いブナ林に一段と趣きが増してくる様だ。
間もなくすると昨日の釣屋さんの言う魚止めの滝が出てくる。砂岩質の両岸は狭い5m位の直曝だがすっかりえぐれており、水しぶきが漂ってちょっと難儀に思えるが、右から巻いて微妙な草付きを左にトラバースすると落ち口に立つ。
その先は穏やかな源頭の雰囲気となるが、それでも小滝と滑滝は続いて楽しく高度を上げる。最後の二俣でしっかり位置を確認し、一対一の水量の左俣を進んで行くと狭い滑滝が続く。何れもフリクションで快適に超えられる。
源頭歩きのゴーロ帯はなく、間もなく腹水流となってやがて枯れ沢となる。最初は楽な藪漕ぎと思って油断したら、やがて難儀な灌木帯が出てきてスピードが鈍る。山頂方面は傾斜が無いが、困った事にまったく視界が効かないので山頂が遠い。
約1時間ほどの藪漕ぎでやっと踏み跡に飛び出し、30m程左に進むと刈り払われた跡に栗子山山頂の標識があった。最後の藪漕ぎがなければなおベストのコースにも思えるが、地図とコンパスで進むフィナーレも良かろう。
栗子山からの下降路は滑谷沢の左俣支流をとるが、山頂から南に進む踏み跡は実に心もとなく、時々コースを外しながらも1202mピークの草原になったコル手前に至る。その先は東俣を降りて鳥川を目指すが、最近痛めた左足の膝が痛んで難儀な下降になる。
本流手前の広く緩い滑滝は見事な景観で、いい加減疲れが出てきた体には優しいお出迎えにも思える。本流から先はゴミが散乱してあまり頂けないが、歩きやすい岩床を歩いて行くとやがて良く踏まれた右岸の道が現れる。
しばらく進んでゆくと突然開けた駐車場の様な広場に出て、その先は万世大路(旧国道)となって出発点の鳥川橋の駐車場に続いていた。
この万世大路は廃道マニアの方々にはかなり人気があるスポットの様で、首都圏方面からのファンも訪れているらしい。
なるほど二ッ小屋トンネルの入り口の風格は時代を感じさせる。最初に馬車が通れる栗子隧道が掘削されて明治14年9月に開通し、明治天皇の御巡幸などの大いなる歴史を物語る、トンネルから先は隔絶された不思議な世界にも思える。
下降路の滑滝沢左俣の岩床
昭和41年に廃道になった万世大路の二ッ小屋トンネル
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