蔵王連峰 不忘山権現沢右俣 2004.01




不忘山から南屏風への稜線を行く 




 山 域  蔵王連峰
 山行日時  平成16年1月25日(日)
 天 候  晴れのち風雪
 メンバー  単独
 行 程  1月25日 白石スキー場リフト終点10:10〜不忘山11:50 12:10〜1732mピーク13:00 13:30権現沢右俣滑降〜コガ沢13:40〜白石スキー場15:30  (行動時間 5時間30分)
 高度差  890m  1720mピーク〜コガ沢〜白石スキー場


 今シーズン4回目の山スキーだが、今の所満足なパウダースキーはやった為しがない。どうしても例年に比較して雪の量が少ない為に、ブッシュが絡んでうっとうしい斜面が多く、気分の良いパウダーランなど望むべくも無かったが、ようやくここに来てまとまった雪に恵まれてチャンスがやって来た。

 朝、目を覚ましたのは6:30AMで、すっかり油断してしまって少し慌てたが、ゆっくり腹ごしらえをしてから蔵王町経由で白石スキー場を目指す。チケット売り場で登山計画と下山時間を記入し、リフトを2本乗り継いで歩き始めた頃には、団体さんが登って行ったトレースがしっかりついた遊歩道のような状態になっていた。間もなくするとコースは正面の直登ルートと右の尾根ルートに別れ、登り易そうな尾根ルートを目指してゆくと先頭の集団に近づいた。この一団はスノーボーダー7人のパーティーで、女の子3人を含む全員スノーシューを履いた、どこでも見かけるパターンの若者達だった。

 ラッセル泥棒しているような気もしたので、間もなく追いついて先頭の女の子に道を譲ってもらう。膝下10cm程の雪なのだが、今までの板と比べるとラッセルしてもあまり疲れない。板が軽くなるとこんなにも登りが楽なのかと感心してしまのと、最近体力の衰えが目立つ自分にとって実に正しい選択だったなと自己自賛してしまう。直登コースを登ってきた1人をさらに追い抜し、結局風雪の強くなってきた稜線をラッセルし、そのまま不忘山のピークに立つ。後を振り返ってみると、天候が悪化してきた為か後続パーティーは登ってくる気配が無く、実に静かな不忘山の山頂であった。

 山頂で腹ごしらえをしていると、朝すっかり晴れ渡っていた南蔵王の稜線はすっかりガスに覆われ、山頂付近は風も強まっていかにも厳冬期といった雰囲気になってきて気が引き締まる。この先は八ヶ岳の稜線に雪がべったり着いたような状態で、東北の山にしては珍しいアルペン的な山容に変化する。スキーをザックに括り付け、ストックを手に南屏風への稜線を下りだすが、アイゼンなしではちょっと心もとない感じがする。最低鞍部付近でようやくスキーに履き替え、稜線の右から左側に巻きながらジグザグ登高を繰り返して山頂を目指す。こんな時にスキーアイゼンなど在ったらなどとも考えるが、取り付け取り外しも面倒そうだし、結局ツボ足が一番などと自分に納得しながらスキーを走らせた。

 南屏風を目指して前進するが相変わらず視界は開けず、どの辺りが山頂かまるで検討がつかない。次第に風雪が強まり、1732mピーク付近に着いた頃には、僅かに稜線に張り出した雪庇が確認できる程度で、どこがドロップポイントなのか判断が難しい。東面に1〜2mほど発達した雪庇が連続し下降できそうな所が解らず、結局100m程下がった辺りに狙いをつけて小休止とする。当初は南屏風山頂直下からのコースを予定していたが、視界不良で下部の斜面も確認できず、止む無く権現沢右俣を今日の目的コースとする。

   
        
北屏風方面は姿を見せず                      南屏風山への
コルを通過する

               不忘山直下の権現沢左俣                   
不忘山の山頂は風雪

 スコップを使って雪の円柱を掘り出してハンドテストを行い、おもむろに滑降の準備に取り掛かる。スタート地点直下に雪庇は無いものの雪で膨らんでいて下部が見えず、ここを嫌って10mほど下がって10mほどの斜滑降で東面上部斜面に入り込む。雪は軽く、35度前後の雪の斜面は実に簡単にターンが決まり、連続したショートターンでどんどん高度を下げて行く。雪が軽い割には雪の状態も落ち着いている様子なので、最初の不安はやがて吹き飛び、安心してパウダースノーを楽しむ余裕のようなもの感じ、思い切って体が浮いているような感触を楽しむことが出来る。沢の中間点あたりから沢の幅が15mほどに狭まってくるが、それでもターンを楽しむには不自由しない。下部で一部小さなブロック崩壊の跡を確認したのみで、雪崩れた様子も無く実に快適なルンゼの滑降が続き、自分でも予想以上の出来に満足してしまった。

 今回新調下板はセミフアットでもないオールラウンドタイプのカービングスキーなのだが、こんな板でもこのくらいの斜面ではそこそこに浮いてくれるので、パウダースノーを充分に楽しめるのは嬉しい。コガ沢近くになると傾斜少しづつ落ちてきて、雪も気持ち重くなって深くなる。コガ沢との合流点について小休止し、南屏風直下のオープン斜面を観察してみると、上部はすっかりガスに覆われその様子を伺う事は出来なかった。昨年の3月に直下の斜面を滑っているので大体の様子は想像がつくが、今日の状態であれば雪の状態が安定し滑降は充分に可能と思われる。ここで初めて気が付いたのだが、デジカメのシャッターがどうしても下りない。スペアーバッテリーに替えても同じで、結局滑降開始からの肝心な写真は1枚も取れずじまいという結果になってしまった。充分にチャージして来たはずなのにおかしいが、寒さが原因か、またはバッテリーが消耗して能力ダウンしたのかは不明。

 ここで今日の核心部は終了したと思っていたが、そう予定どうりにいかないのが登山とか山スキーでよくある事である。コガ沢の下降を始めると次第に雪が深くなり、膝くらいの深さで重い雪に変化して3月頃のように上手く滑らない。付け加えてルートを沢筋の右岸をトラバースして行くが、まだ完全に滝壷が埋まっていない所が4箇所程あり、厄介な状況に出くわす。沢筋から10mほどの高さを保ち続けながらトラバースしようとするが、途中で登り返しになったり、どうしても滝壷付近の急な斜面を通過せざるを得ないような場面も在る。最も厄介なのが滝壷のトラバース。深さが2m以上は在りそうな滝壷上部の斜面が急で、どう見ても50度以上は在りそうなところは本当にぞっとする。慎重に5mほど登り返し、高度を保ちながら一気にトラバースを試みたが、不覚にも左側の谷足が流されてしまい、滝壷の真上で止まってしまった。一瞬あせってしまったが、幸いにも山側の右足を大きく前に伸ばしていたので、ようやく体のバランスを何とか保つことが出来、微妙なバランス移動で切り抜けることが出来た。

 安全地帯に逃げ込んで小休止。雪壁に突き刺さったストックを回収し、やっと落ち着きを取り戻した。沢登りの経験のある方ならばこの状況を容易に想像できると思いますが、冬にはさらに3m以上の雪壁で囲まれていて、もし失敗すればどうなるか賢明な諸氏には想像がつくでしょう。思わず地元紙の3面記事を想像してしまったりしたが、「山キーヤー蔵王山系で溺死?」などとなると、山屋としてはとてもかっこ良いものではない。昨年は飯豊北股沢で転倒して40mほど流されたが、その時の危機感はあまり無かった。しかし今回は後で考えてもぞっとしてしまう。こんな事は危険予知の常識の範囲と思いますが、山の中では皆さん決して気を緩めることなく行動しましょう。

 そんなこんなで以外に時間を食ってしまい、おまけに950m付近で白石スキー場にトラバースするはずが、ポイントを誤ってしまって蔵王特有の下部ブッシュ帯に突中。どうにもならず再びシールをつけて右往左往しながらやっとの事で白石スキー場にたどり着くことが出来た。後で考えれば沢を忠実にくだり、車道にでてスキー場の駐車場まで戻るほうが正解か?



権現沢右俣〜コガ沢 MAP