朝日連峰、角楢沢下ノ沢


【日 程】    H15914
【メンバー】   荒井  坂野
【行 動】    角楢小屋830AM〜下ノ沢出合1000〜登山道1400〜祝瓶山頂14201435〜角楢小屋分岐1550〜角楢小屋1630

【概要】

 かれこれ
30年も昔、朝日連峰のはじめての縦走はやはり五味沢を起点とし、大朝日岳のピークを踏んで主稜線を縦走した。以東岳から大鳥池に下る今でも定番のコースだった。当時は40kg近い大型のキスリングを背負い、34日の行程で歩いたような記憶があるが、今にして思えば苦しいながらも充実感のある、思いで深いはじめての個人山行であった。これをきっかけにその後はワンダーフォーゲル部の合宿に何か飽き足らず、次第に無断個人山行を度重ねた末に結局は退部し、社会人山岳会の門を叩くことになった。その後一度も五味沢を訪れることも無く、あまり朝日連峰を訪れる機会も少なくなり、30年以上の日々が過ぎ去った。

 今回の計画は当初、出合川流域の西俣沢を大井沢から2日間でやろうという欲張った内容であったが、今年の天候不順からどう考えてみてこの2日間連続した好天は期待が出来ず、しかもこれは自分の体力、技量ともに無理なことはすぐに解った。相方の荒井君に相談して今回は安全策を講じ、角楢小屋をベースに、角楢下ノ沢、角楢上ノ沢、大玉沢を上る予定に変更してもらう。またこの機会に、しばらく押入れの隅に仕舞い込んだままのテンカラ竿を取り出し、久しぶりの釣りも堪能しようという実に都合の良い計画へと流れていった。

 前夜の930PMに林道の終点に到着し、翌朝の715AMに出発して角楢小屋着800AM。昨晩は雨が激しく降り出したものの早朝になるとすっかり上がり、天候も安定していて角楢小屋で身支度を整え、早速小屋のすぐ下から角楢下ノ沢の遡行を開始する。角楢沢は昨夜の雨で予想より水量が多いが、沢床は少し赤茶けた岩質で樹林が渓を覆っているが、なかなかな明るい感じのする沢だ。入ってすぐ大きな釜を持った小滝になるが、右岸の巻き道を上がって通過しすぐ沢床に戻り、しばらくは大きく開けたゴーロ歩きがつつく。やがて左岸が山全体に大きく抉り取られたような地点になり、廻り全体を見上げると大掛かりな山抜けの後であることが解る。12mほどの岩が至る所に散乱していて谷底全体に砂が堆積しており、当時のすさまじさを今も物語るような状況だ。

 しばらく過ぎると両岸が圧縮されたようなゴルジュ帯に入る。ゴルジュの入り口にかかる小滝を超え、沢が大きく左に曲がりと二段3mの滝が出てきて右岸を大きめに高巻く。ゴルジュを抜けると、またしばらく穏やかな渓筋となり、時々出てくる小滝と釜が出てきたので、テンカラ竿を取り出して岩魚にいそうなポイントをめがけて毛ばりを打ち込んでみる。最初は魚信が無くどんどん釣り上がってゆくと、左岸から入る枝沢の小さな釜を見つけ、慎重に近づいて釜の淵をめがけて打ち込む。1投めで岩魚がゆっくり反転し、少し間を置いて小さく合わせると掛かった。20cmほどのサイズだったが私にとっては、朝日連邦で初めて毛ばりで掛けた岩魚なので慎重にリリースする。

 今日持ってきた4.5mの毛ばりラインは、以前宇都宮にいたときの釣り仲間からもらった山釣り用の自作のラインで、太くて少し重いが振ってみると飛ばしやすく、ポイントも狙いやすくまた強度もある優れものである。やっと竿の振りも慣れてきたところだが、この上の釜でさらに25cmほどの岩魚を吊り上げたが、その後はぱったりと魚信が途絶え、竿はザックに仕舞い込んで遡行に専念することにする。

 途中で右岸を2回目の高巻してからしばらくして沢を行くと、突然沢を下降してくる若い男女の5人パーティーと行き違う。話を聞いてみると昨夜二俣付近でビバークしたらしいが、夜間の雨で川の水が増水して今日の予定を中止して下降してきた模様。最近山の中で20代の若者の集団に出くわすなどという事は珍しく、しかも沢の中とは意外な感じがした。

 1000AM上ノ沢の出合に到着。本流の上ノ沢出合は岸が切り立って狭く、その先は暗いゴルジュが続いている様だったが水量が多い。下ノ沢は二段3mの小滝がその入り口になっており、緑の苔むしたつるつるの斜滝を流水を受けながら越えると、沢が右に曲がりくねった所に10mの直瀑が現れる。両岸が狭まってとても直登は出来ないので下に戻って右岸から傾斜の強い草つきから潅木帯に入り、上段の滝の上をトラバースして高巻く。さらに小滝を越してゆくと再びゴルジュ帯に入り、苔むした岩肌が多くなってつるつるして滑りやすい。その後も小滝や釜が連続し結構楽しい。

 しばらくして頭上に稜線が見えるようになり、しばらく遡行を続けるときれいなナメ滝が現れ、両岸も少しづつ明るくなり樹林帯が後退してくる。水量も少なくなり、赤茶けた花崗岩の岩床となった沢筋をたどってゆくと、かなり開けた地点で二又に突き当たる。ここから見上げる斜面は急に斜度を増して、稜線までスラブ帯がして上部は草付きとなって稜線に続いている。一見するとどのスラブを詰めても稜線にたどり着けそうに見えるが、直上してピークを目指そうとすると上部の急峻な草付きに阻まれ、進退窮まってしまいそうなのでルートの選択には要注意である。

 快適なスラブが連続するが体のほうは既に言うことを効かず、時々小休止を入れながら少しづつ高度を稼いでゆくと、スラブ状の二俣に突き当たる。思わず直上している左俣を詰めて見るが、急に水量が少なくなって上部は急な草付き帯となる。50mほど戻って右俣を登り返すと上部は右上して50mほどの岸壁下のルンゼとなって稜線に消えている。稜線はガスがかかってはっきり確認が出来ないが、どうやらこれが正しいルートのように思われ、潅木混じりのスラブ帯をただひたすらに上を目指し、黙々と高度を稼いでゆく。下を振り返って見ると沢床に吸い込まれそうな急斜面だ。

 しばらくして傾斜が緩くなったと思ったらヤブ漕ぎも無く、突然縦走路に飛び出してフィナーレを迎えた。稜線上はすっかりガスに覆われてしかも風があり寒くてゆっくり休憩など取れるような状況ではなく、そのまま体に鞭を入れるように山頂を目指して歩きつづける。山頂で缶ビールを空け、体が冷えないうちにすぐに下降に取り掛かり、濡れた縦走路で膝をガクガクさせズルズル滑りながら一気に角楢小屋に降りた。

  

           有名な角楢小屋                    毛鉤の感触

   

                 花崗岩の感触                       美しいナメ滝

   

明るく快適な上部                   快適な高度感

   

   上部は狭いスラブ帯                 登山道に飛び出す



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