鳥海山南面 本白沢 2006.04


      

     外輪山直下の大斜面から本白沢へ


     

 山 域  鳥海山 2236m 
 山行日時  2006年4月29日(土)  
 天 候  晴れ
 メンバー  荒井 東風さん 坂野
 行 程  大台野5:30〜鶴間池小屋6:55〜尾根上7:55〜南物見9:40〜外輪山
 11:45 12:35〜本白沢〜鶴間池小屋13:45 15:00〜大台野15:48

 鳥海山の南面は下部の沢筋が深く切れ込んだV字谷となっており、夏でも釣りを目的とするパーティーが一部入っている様だが入渓者は少なく、記録もあまり見られない地図の空白部のような所に思える。まして山スキーのコースとなると下部からのアプローチは困難で、途中に見られる大きく露出した滝が現れて絶望的に見える。しかし昨年の4月に同じく南面の上ノ台コースを訪れた際、頂上付近の大斜面とそこに食い込むような3本ほどのルンゼが見え、どうにか山スキーコースにならないかと考えていた。

 当初は祓川コースを登ってからこの南面のルンゼを下降し、再び登り帰してから祓川コースを降りて戻るというプランだった。しかしAさんのアイデアで鶴間池からトラバースして尾根に取り付き、外輪山から標高1000m付近の上部のルンゼ滑るというプランに傾いた。しかも発案者は好天を狙って単独で取り付き、意外とあっさりビア沢を滑ってきた。話を聞くと鶴間池周辺は同じ鳥海山とは思えないような別世界で、コースも変化にとんで面白そうだった。こうなったら是非一本はトレースしておきたいコースなので、無理やり誘ってもう一本東隣の本白沢に出かけた。

 スタート地点の大台野は標高600m付近まで車で入れたが、昨夜はついつい調子に乗って2:00AMまでの酒宴となってしまう。今回は初参加の東風さんだがめっぽう酒は強い方の様で、当日は2時間の睡眠のみでも4:00AMにはすっきりして既にやる気まんまんのご様子。なだらかな車道沿いにスキーを進め、標高950m地点から鶴間池をめがけて急峻な斜面を200mほど降り、ブナ林にひっそりとたたずむ鶴間池小屋に到着する。赤いトタン屋根のこじんまりとした小屋だが、湖面に逆さ鳥海山を映した魅力的な鶴間池の湖畔にあり、実に素晴らしいロケーションに驚いてしまう。廻りを噴火口の外輪山に囲まれ、まるで別世界にトリップした様な錯覚といっても良い雰囲気。地元の八幡山岳会の皆さんが管理している小屋で、手入れが行き届き立派な小屋だ。なお、使用に当たっては電話などによる事前の連絡が必要。


地元八幡山岳会が管理している鶴間池小屋 尾根への取り付きはやや複雑な地形
 
鶴間池から先の登山道は尾根伝いに伸びているが、標高1400m付近の南物見が最高点となっており山頂にはたどり着けない。今回のコースはこの尾根をさらに登り詰めて南面の大斜面に入り、ビア沢右隣の本白沢上部を目指す。鶴間池からは上部が障壁に遮られているので、壁の基部をブロック雪崩れの跡を見ながら大きくトラバースし、大きく右に迂回して尾根の弱点部分に立つ。この周辺は視界が利いていれば問題ないが、ガスに覆われると解り難いしブロックの崩壊の可能性があり注意を要する。

 尾根上に上がると次第に視界が広がり、広く顕著な南物見尾根の上部に南面の大斜面が見えるが、中々山頂までの距離感がつかめないく急な斜面を喘ぎながら高度を上げる。天候は申し分なく視界は良好で、昨年の4月にトレースした右隣の上ノ台コースが次第に接近してくる。急な斜面を乗り越えると上部の大斜面が近づき、ビア沢、本白沢の上部が確認できる。しかしいくら登っても外輪山は近づかず、次第にペースは落ちて喘ぎながらの登りとなってくる。今回は本白沢を目指すため、ビア沢の緩い斜面を右上して七高山方面にコースを取る。快調に飛ばすトップからは次第に距離が開いてしまい、いつのまにか外輪山に姿を消して行った。

尾根に上がると視界が一気に広がる 快適に尾根と詰めてゆく なかなか距離感がつかめない
次第に大斜面が迫ってくる 昨年の4月に上った上ノ台コース 最後の大斜面を目前にして1本
 
 トップに後れを取る事15分で外輪山に到着すると、七高山方面では今までの静寂とうって変わって多くの人が数珠繋ぎ状態で、山頂には入れ替わり次々にスキーヤーが上がって来る様だ。千蛇谷方面からは今日のトップと思われるスキーヤーが到着し、最後の新山の岩混じりの急斜面に取り付いていた。さらに湯の台コースから上がってきた女性登山者は実に軽快で、七高山に達すると折り返してあっという間に下山して行った。いつもマイナーコースが多くあまり人に会うことは少ないが、今日ばかりはいきなりの大渋滞で、この時期はずいぶん都会の匂いのする山だなと感じた。いまだに滑っていない千蛇谷を見下ろしながら、来年の宿題の数々を思い浮かべるのもまた楽しい。

七高山方面を目指して斜上してゆく まだ未滑降の千蛇谷
七高山方面には人、人・・・・ 千蛇谷から先頭パーティーが上がって来た
 
 多少の風も気にならずに缶ビールを飲み干し、期待の南面大斜面の滑降に取り掛かる。外輪山から見ると目指す本白沢は判然としないが、おおよその見当をつけて大斜面に飛び出すともう止まらない。最近雨で流れた様子も無く、降り積もった新雪も無いフラットな斜面の快適ザラメ雪で、スタートするや先頭の二人はあっという間に小さくなって行く。デジカメで撮影を終わると急いで二人の後を追うが、この大斜面はスピードに乗ったロングターンが楽しい。やがて本空沢の入り口に差し掛かり、入り口でコースを一度確認してから沢筋を目がけて滑り込む。この時期の鳥海山で3人貸し切り状態とはかなり贅沢な話である。

ザラメ化した雪でスキーが良く走る ノントレースの大斜面を豪快に下ってゆく
大途中から顕著な本白沢を目指して降りる 適度に柔らかい雪は板も回しやすい
 
 本白沢はしばらくの緩い斜面から急斜面のルンゼに変化するが、相変わらずスキーは良く走り快適に高度を下げて行く。標高1300m付近で沢筋がやや狭まると右岸の斜面を伺い、右となりのビア沢へのトラバースポイントを確認する。もっと下れそうだが鶴間池への下降地点が見えて来たので、ここは無難に尾根をトラバースしてビア沢に入り、さらにトラバースの後南物見尾根を下降点まで下る。ここまで1200mの滑降は雪質も均一なザラメで滑りやすく、斜面はフラットで最後までガンガン飛ばして豪快な滑りを満喫できた。まったくのノントレース斜面を貸し切り状態にできるとは、我々もよほどの幸せ者に違いない。

絶好調模様の東風さん 次第に本白沢の下降となる
緩い傾斜をロングターンで下る 本白沢の中間部付近

 尾根から下は太右エ門沢廻りこんで斜面をトラバースし、ブロック雪崩を警戒しながらやがて鶴間池に帰着する。池到着すると池の水を汲んでウイスキーの水割りを作り、贅沢な時間を過ごして今日の滑りを振り返る。東風さんのザックからはブランデーも飛び出し、何時にない大人の時間が過ぎてゆく。やはりいつもガツガツと登るだけが芸では無いという事か。まろやかな味の水はこの景色に良くマッチしている。出来ることなら今日一晩だけでもこのまま滞在したいもの。いや、今度こそは別目的手訪れてみよう。ここから終点の大台野まではこれから20分ほどの急斜面の登り返し、後は快適に車道沿いに滑り続けて車に帰着する。

 今回の南面コースは今まで記録らしいものは見当たらないが、上ノ台コースと異なり辛い林道歩きが無いだけ入り易く、この時期ならば6〜7時間ほどで外輪山に達することが出来る。天候さえ良ければ3月頃でも日帰りが可能であり、しかも山形県側からアプローチできるという点で面白い。ただし鶴間池上部付近は地形がやや複雑で、斜面のトラバースを強いられて雪崩への警戒が必要といえる。また上部の大斜面は広大で視界が利かないと下降が難しくなる。天候判断と雪の状態次第ともいえるが、メジャーコースに物足りなさを感じる方には良いかも知れない。

隣は上ノ台コースの下部 鶴間池からは急な斜面の登り返しが20分

 
  
鳥海山南面 本白沢コース